日本では「男女平等の先進国」というイメージが強いフランス。現在日本で議論になっている離婚後の「共同親権」も87年に導入し、男女平等のシンボルとなっている。

 しかし実は、現在このシステムが遠因になって引き起こされた家庭内暴力が問題視されていることは、日本ではあまり知られていない。背後にはフランス社会に蔓延する子供への性暴力の問題と、司法の機能不全があった。

©AFLO

 2014年、当時30歳だったフランス人女性のハイディ(仮名)は、同い年で中学教師をしていた交際相手のトム(仮名)と一緒に暮らそうと、それまで住んでいた街を離れてトムの住むフランス北西部に引っ越すことを決めた。

ADVERTISEMENT

 幸せな生活をふたりで築けると信じていたハイディは仕事をやめ、もとの家も引き払って、トムの家に引っ越した。当時からトムはたまに怒ることはあったが、ハイディは「何かのきっかけで頭に来るなんて誰にでもあること」と深く気にしてはいなかったという。

「一緒に住みはじめた瞬間に本当の自分を露わにしたんだと思います」

 しかし現在、彼女は当時の状況について「罠にかけられたようなものだった」と表現する。「優しくて、ユーモアがあり、私の求めるものを全て与えてくれた」はずのトムが、仕事をやめて戻る家もないハイディに対して徐々に攻撃的に振る舞うようになったのだ。

「作った食事が気に入らないとテーブルの上に全てをひっくり返し、壁を殴って穴をあけ、私を怖がらせるために怒鳴るなど、彼の行動は一変しました。こちらが向こうの希望通りに振舞うように、無理やりにでも従わせようとしはじめたんです。人格が変わったというよりは、私が一緒に住みはじめた瞬間に本当の自分を露わにしたんだと思います」(ハイディ)

 しかしトムはハイディにDVを加えると、翌日に決まって“謝罪”をしたという。

「『昨日はごめん、反省する』と殊勝なことをいうんです。今思えば、トムは謝りながらも、『自分が怒ってしまうのは君の行動のせいだ』と責任をこちらに押しつけてきました。当時は私も自分が悪いのだと思い込んでしまって、それ以上なにも言えずにいたんです」(ハイディ)

 ハイディは同居開始後すぐに妊娠し、2015年に女の子、ローズ(仮名)を出産する。父親になってトムも落ち着くかと思われたが、事実は全くの逆だった。

「これで多少まともな人間になるかと期待したのですが、トムの暴力は悪化しました。臨床心理士にも診てもらいましたが、まったく状況は変わりませんでした」