現在のフランスのシステムでは、近親姦の訴えがあっても有罪判決が出るまでの間は、両親の親権は保持される。まさにトムによる性加害が行われていたと疑われる面会交流の形も、一度は「中立の場所で監視つき」という条件に変わったが、不起訴となった後にもとの「月に2度の週末と、長期休暇の半分をトムの家で過ごす」という条件に戻すことが決められた。
再び娘を危険にさらすことを恐れたハイディは、2021年に面会交流を拒否。しかしトムは自分の親権が侵害されたとして、逆にハイディを訴えた。裁判の結果ハイディは有罪判決を受け、執行猶予つきの半年の収監と5000ユーロ(82万円)の罰金を科された。
「あまりにも理不尽な判決です。私はただ娘を守りたかっただけなのに……。裁判所にとっては、父親が近親姦で告発されていても関係ないんです。フランスは人権の国なんかじゃありません。男権の国です」
後にハイディの刑は捜査に誤りがあったということで一旦取り消されたが、現在も係争中で決着はしていない。またローズがトムの家で過ごす面会交流も、近親姦の件で結論が出ていないことから、現在は再度中立の場所で監視つきのものに変更されている。ローズ自身は最初は面会交流を拒否していたが、最近は諦めて受け入れるようになってしまったという。
「フランスをモデルにするのは完全に間違っている、日本の人にも冷静に考えてほしい」
このように、「精神的にボロボロ」の状態で日常を送るハイディに追い打ちをかけるように、現在はローズと一緒に生活ができていない。面会交流を拒否したことが影響して、「ハイディと暮らしていない状態でローズの告発に変化があるか」を確認するために現在は里親の元で生活しているのだ。出発する日、ローズは泣き叫んで母親の元を去ることを拒んだが、それ以来、母娘は2週間に1度の面会だけが許されている。
「これ以上の苦痛はあるでしょうか。私はもう生きていないのも同然です。一緒にいる間もあまり話をしません。会えない時間を生き抜くために、ひたすら娘と抱き合って互いの愛情を満たしています」
ハイディはPTSDの診断を受け、仕事も辞めざるをえない状況に追い込まれた。現在は彼女は障害者認定を受け、公的な援助によりやっと生活している。
話の終わり際、日本でも共同親権を導入するための法案が審議中で、家庭内暴力についての議論が争点になっていることを伝えると、ハイディは「フランスをモデルにするのは完全に間違っている」と即答した。
「離婚後も仲のいいカップルなら共同親権は成立するでしょうが、暴力がある場合は無理。日本の人には冷静に考えてほしい」