近親姦の告発を受けて有罪になるのはわずか1%
だが2002年の法改正から22年がたち、現在のフランスの社会状況は様変わりした。2017年にアメリカで起きた「me too運動」はフランス社会を大きく揺さぶり、2021年1月に著名な政治学者のオリヴィエ・デュアメルが近親姦で告発されたことで、子供への性的虐待は社会的な一大トピックとなった。
世論の高まりを受け、マクロン大統領は「近親姦および子供への性暴力についての独立委員会」を設置した。
去年発表されたこの委員会のリポートによれば、フランスでは毎年16万人もの子供が性暴力の被害にあっているという。加害者は男性が97パーセントと圧倒的に多く、そのうち一番多いのが父親で27%、それに兄弟の19%、伯父・叔父の13%とつづく。
とりわけ問題視されているのが、性虐待の加害者を処罰することの難しさだ。同リポートでは、児童への性暴力は告発があったとしても不起訴になる可能性が非常に高く、加害者の有罪判決に繋がるのはわずか3%、近親姦の場合は1%という低さだ。
現在のフランスのシステムが問題視されるようになったのも、まさに子どもへの性虐待の温床になっているのではないか、という点からだった。「なにがあっても子供と両親のつながりを保つことが子供の利益になる」という考え方が強いフランスでは、性暴力が立証されなかったケースでは、推定無罪の原則によって加害者は親権を維持し子供との関係を維持することができる。しかし有罪判決はわずか3%なのだ。
さらに被害者が幼い場合、自分の受けた被害を性暴力と自覚しづらい、周りに言っても周りが信じないなどの事情がある。近親姦の被害者を支援する団体のアンヌ・クレルクは「証拠を集めるのが困難で特に立証がむずかしい。推定無罪の原則によって実際は加害者が守られてしまっている」と話す。
結果、父親からの暴力を訴える子供の多くが、その後も父親との交流を強いられているのだ。
さらに母親が子供を性虐待から守るために父親との面会交流を拒否した場合、父親の親権を侵害したとして罰金や懲役などの刑を受けるケースも少なくない。