AI(人工知能)ブームとでも言うべきでしょうか。世にAIに関する書籍が氾濫しています。とりわけ衝撃的だったのは、やがてAIが人間の知能を追い越すシンギュラリティ(技術的特異点)が到来するという“予言”です。ところが著者は「シンギュラリティなど来ない」と断言します。
思わずほっとする主張ですが、人間の多くの仕事がAIに取って代わられる時代は来ると予告します。そんな未来に向かって何をすべきなのか。著者は、AIには苦手な「読解力」こそが将来の人間にとって大切なのだと指摘します。
著者は「ロボットは東大に入れるか」と銘打った人工知能プロジェクトに取り組んできました。東京大学の入試問題をAIに解かせ、合格点が得られるようにするという計画です。その結果、東大に合格するまでには達していませんが、首都圏や関西圏の有力私大の入試なら突破できるまでの力を備えました。
そこで確認したこと。それは、AIとは人間が設定した条件の下で素早く計算するだけのものであり、文章の意味を理解しているわけではないということです。
ということは、読解力や人間としての常識、発想力を持っていれば、AIに取って代わられる恐れはないはずです。さて、現代の日本の子どもたちは、AIにはできない読解力を持っているのか。著者たちは、中学高校生を中心に二万五〇〇〇人を対象にした読解力テストを実施しました。その結果は、驚くべきものでした。中学校の教科書レベルの文章が理解できない生徒が続出したのです。たとえば次の問題です。
【問題 次の文を読みなさい。
幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
上の文が表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」のうちから答えなさい。
1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。】
この問題の正答率は中学生五七%でした。二択問題ですから、コインを投げて裏表で解答しても五〇%は正答できるのに。
どうしてこんなに読解力が低いのか。著者は小さい頃から読書習慣がついている子どもほど読解力が高いのではという仮説を立ててアンケート調査しましたが、相関は見られませんでした。そこで著者は気づきます。「アンケートの文そのものを正確に読めなかった可能性すらある」と。著者は危機感を持って、こう訴えます。AIにはできない仕事に従事できるようにするためには、中学校を卒業するまでに中学校の教科書を読めるようにすることだと。