編集者がどれだけ才能のある作家にでも書かせたくない「小説のジャンル」とは……? 講談社の人気小説を数多く手掛けた編集者の唐木厚氏による初の著書『小説編集者の仕事とはなにか?』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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小説では手を出さないほうがいいジャンル
作家にアイディアを提示されたとき、どんなに親しく付き合っていて、才能のある相手であっても、「これは売れない」と自分が思ったときにはストップをかけることもありました。テーマによっては「ほかの作家が書くならば違うかもしれないけれど、それはあなたが書かないほうがいい」という場合もあります。
また、小説には手を出さないほうが無難なジャンルもあります。
一例を挙げれば、絶対とは言い切れませんが、プロレス小説は大ヒットはしません。僕自身はプロレスが大好きなんですよ。けれども長年編集者をしてきた人間として、ヒット作をつくるのは非常に難しいと思う。もちろん、いままでも良い作品は書かれています。純粋に小説として読んだなら、十分に面白い作品も多いです。でも、どの作品も大ヒットするまでには至っていない。
なぜなのか。プロレスファンにとっては、実際のプロレスのリングで展開されている物語があれば十分だからではないでしょうか。実際の物語を前にすると、小説の物語はどうしても「つくりもの」に思えてしまいます。プロレスは、永遠に最終回のこない連続ドラマのようなものですから、それを小説にするのは難しい。しかもジャンルそのものがマニアックなものなので、関心を持ってくれるファン層が厚くない。