「議論せんでも行政は動いとった、根回しで」
これまでの政治は役所と議会が陰でコソコソ話を付けて結論を出していた。それが当たり前で、市民は「お偉いさんが勝手にやってること」だとあきらめていた。私自身、NHK記者として各地で地方政治を取材してきた体験とも重なる。談合政治だ。
こうした風土が参院選の大規模買収事件を引き起こし、現金を受け取っていた前の市長は辞任。石丸氏が彗星の如く現れて初当選する。打ち出したのが「政治の見える化」だ。みんなに見えるところで議論して決める。SNSやYouTubeでどんどん発信する。
だが古い手法に慣れた議会はついていけない。
「議論せんでも行政は動いとった、根回し政治で」
「結論だけわかればいいんじゃないですか」
そういう従来の手法が地域社会の衰退を招き、政治不信につながったのではないか。そこに一石を投じた石丸市長の姿を描くことで、映画は「政治を自分ごととして考える」きっかけを提示しているのだろう。
それは、この連載で最初に紹介した『映画 〇月〇日、区長になる女。』で描かれた杉並区長選にも重なる。世の中を変えたい、変わりたいと願う人がじわじわ増えているのかもしれない。
ずらりと並んだ『地球の歩き方』
石丸市長の自宅で、パソコンの横に『地球の歩き方』がずらっと並んでいるシーンに目を引かれた。私もかつて愛用した旅行ガイドブック。世界を旅して自分の目で確かめる。それが「見える化」の原点かもしれない。
石丸氏は1期目の任期満了を前に、6月告示の都知事選への立候補を表明した。安芸高田市でやったように、東京でも「見える化」を貫くのだろうか?
『#つぶやき市長と議会のオキテ【劇場版】』
STORY
広島県北部に位置する人口26,000人余りの安芸高田(あきたかた)市。過疎・高齢化が進む小さな地方都市で、2019年参議院議員選挙の際の大規模買収事件で、現金を受け取った当時の市長と市議3人が辞職した。
2020年8月に急きょ実施された市長選で、市民が選んだのは、政治経験ゼロ、元銀行員の37歳・石丸伸二だった。石丸市長は、「政治の見える化」を掲げ、ツイッター(現X)での情報発信を積極的に行い、市民からの期待も高まるが、最初の議会から紛糾する。
非合理的と判断した事業の中止や新しい政策を次々と打ち出す新市長と、従来の手順を重んじる議員たちとの溝が深まるなか、石丸市長のある投稿をきっかけに、議会は思わぬ方向へ展開していく――。
STAFF
監督:岡森吉宏/2024年/⽇本/106分