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「みんなが言うのもそこなんですよ。相手が気分を害するんじゃないかってハラハラするような言い方をときどきしているようなんです。本人に注意しても、とくに相手方から文句を言われることもないから大丈夫です、なんて言うんです」

『おそらくご本人は、相手の言葉に繊細に傷つくタイプではないんでしょう。だからみんなもそうだと思ってしまうんでしょうね』

「そうかもしれません。アドバイスしても的外れな応答になるし、結構図太いところがあるので。だけど、いろんな人がいますし、彼より繊細な人のほうが圧倒的に多い気がします。嫌な感じがしても、向こうも大人だからあからさまに文句を言わないんでしょうけど、やっぱり関係が悪化しても困るし……」

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『そうですよね。それに加えて、何につけてもマニュアルに頼らずに、自分の頭で考えて、試行錯誤する習慣を身につけてもらうことも大切かもしれませんね』

「たしかにそうですね。何しろ定型文をくれなんて、これまでだれからも言われたことがないし、みんな自分の頭で考えて対応してるわけですよね。それができるようにならないと、この先どんな部署に行っても困りますね」

悩める上司へ心理学博士からのアドバイス

 そこで、つぎのようなアドバイスを行った。

 コミュニケーションというのは、相手との相互作用で進めていくものであって、けっして一方的なものになってはならない。相手が何を言ってきたかを踏まえるのは当然だが、どんな思いで言っているのか、何を求めているのか、といったことを考慮して、こちらの言い方を工夫する必要がある。

©cake and steak/イメージマート

 相手がイライラしているようなら、気持ちを和らげるような言い方を心がける必要がある。

 こちらに何かの手違いがあって文句を言われたときも、相手はとくに問題をこじらせるつもりはなく、ただ謝罪の言葉がほしいだけということも珍しくない。それなのに言い訳ばかりしていると、向こうの気持ちが収まらず、ついにこじれてしまう、といったことにもなりかねない。

 こちらに失態や失礼があったときは、丁重に謝罪をするのは当然のことだが、相手が何か勘違いしているような場合も、勘違いを糾弾するように指摘したら、相手は気分を害してしまうだろう。

 この悩める管理職は、これまで定型文を要求されたことはないが、みんなそれぞれに考えてうまくやってくれていたのに、なぜそれができないのかと首を傾げていた。それは社会経験をしっかり積んできたかどうかの違いと言えるだろう。