各国から優秀な人材が集まるグローバル企業では、コミュニケーションの“常識”が日本人の感覚とズレることも多々ある。米マイクロソフトの現役エンジニア・牛尾剛さんが一流エンジニアたちとのチームで学んだコミュニケーションの極意について解説します。
※本稿は牛尾氏のベストセラー『世界一流エンジニアの思考法』から一部抜粋したものです。
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「たくさん情報があっても消化できないだろう?」
アメリカで発見したのが、対クライアントでも社内でのやりとりでも「脳の負荷を減らす」端的なコミュニケーションが喜ばれるという事実だった。
とくにエンジニアの人には「情報が少ない」ほうが好まれる。たくさん情報があっても消化できないだろう? という感覚。それはプレゼンテーションや会議に限らず、日常業務のコミュニケーションでもそうだ。
最初、私はそのカルチャーがまったくわからずに右往左往した。日本ではコンサルタントとしてプレゼンは上位評価を受けていたし、話でお客さんを惹きつけるのも得意だったから、コミュニケーションスキルに自信をもっていた。ところが、アメリカに移住すると、これが死ぬほど通用しなかった。最初は英語力の問題かと思ったが、そうではない。
どうやら私の話は盛りだくさん過ぎて、「わかりにくい」ようなのだ。
日本では「情報が多い」と喜んでもらえるので、もちろんわかりやすく整理したうえで、相手が知りたそうな情報は全部盛り込んでいた。例えば聴衆を前に技術プレゼンをするときにも、初心者も上級者も「来てよかったなー」と思えるよう、ドキュメントからサンプルアプリケーションまで用意して、しっかり「お得感」を感じてもらえるようにしていた。総じて、日本で評価の高いプレゼンテーションでスライド枚数の少ないものはまずない。
たくさん書いて送ると無視されて……
同僚とのコミュニケーション一つとっても劇的な違いがあった。
例えばCI(継続的インテグレーション)のパイプラインが突然エラーで落ちて原因がわからないとする。日本だったら、「こんなエラーメッセージが出て、バージョンがどれで、自分はこれとこれを試して、結果がこうなった。これこれをやると落とし穴にハマるから避けてね。ちなみに、パイプラインのコードはこのPull Request で追加したものです」とすべての情報を整理して送ってあげると喜ばれた。
しかしアメリカで似たようなことをすると、メッセージを送っても無視されるのだ。メンターのクリスに相談してみたところこんなことを言われた。
「みんな忙しいだけ。たくさん書いてあると読むの大変じゃない? もっと単純なのでいいよ」