理解してもらうことに丁寧に時間をかける
実は日本で鍛えられた丁寧な「準備」と「改善」の精神は、プレゼンテーションでは意外な強みを発揮する。
ある日、最高に頭のいいメンバーたちを前に、技術的な説明をしたことがあった。難易度の高いところから順に、すべてのパターンやプラクティス、リポジトリ(プログラムの保管場所)の構造を知っている前提で話したが、今ひとつ反応がよくない。
途中でふと、「まさか、みんなよくわかってない?」と気づいた。そこで学んだことは、ものすごく賢い人たちでも技術の中身は即座に理解できるわけではないということだった。
だから2回目に説明するときはよく準備して、情報を最小にし、「簡単なこと」をしっかり説明するようにした。つまり、理解してもらうことに丁寧に時間をかける。
すると、ここからが彼らは違った。情報量をコントロールして、筋道立てて基礎的なことから説明すると、一瞬で理解して、鋭い質問がバンバン飛んできたのだ。
こうしたタイプの〈本質的な理解をうながす〉高度にコントロールされた最小のプレゼンテーションは、おそらくはアメリカ式の「アドリブ」でやるのは難しい。非ネイティブならなおさらだ。
私はプレゼンテーションにさらに改善を重ね、アーキテクチャの説明に、パワーポイントで3分くらいの動画にまとめたものをつくってシェアするようにした。大変好評で、出席者たちからは「これは他のチームメンバーも見るべきだよ」と嬉しいコメントをたくさんもらった。
スライドを読み上げる説明は好まれない
このようなパワーポイントのつくり方に関しても日米で好みの違いがある。日本人は図や概念図のようなビジュアルを好むが、アメリカ人は大きめで少ない文字が好み。ただし、難しい概念の場合、アニメーションにしてあげると、視点誘導をしやすいので、日米ともに喜ばれる。米国の場合、スライドに書いてあることを読み上げて同じ説明するのは好まれず、必然的にたくさん口頭で説明することになる。
日本のほうはあとで見てわかるように情報がしっかりのっているのが好まれる。
私は「その場の思考の瞬発力」が不得手だ。日本人は持ち帰って考える癖があるので、瞬発で考えるのがあまり得意ではない。でもドリューというボスが言っていた。
「それでいいんだよ。もしあとでいいアイデアを思いついたら、そのときシェアしてくれたらいいから」と。それであとからメールしたりすると「いいアイデアだね」と喜ばれることがよくあった。
「準備」と「持ち帰り」が習い性になると生産性を落とすので、先におすすめした通りなるべくその場で解決するのが望ましいが、優先順位の高い案件を持ち帰ってしっかり練るのは決して悪いことではない。
インターナショナルなチームは、多様な人種・国籍の人たちが集まるので、個々人は違うという認識が当たり前のように共有されている。その中で自分の強みとなるスタイルを磨くことが、アウトカムを出すうえで武器になるのだ。