顧客に対して言い方がきつかったり、相手をカチンとさせるようなことを言ってしまう部下。本人にそのことを指摘すると「定型文をください」と言われてしまい……。

 管理職として多くの部下と接していると、自分の想像を超える行動パターンを示す人に出くわすこともある。どう指導したらよいのかわからず処遇に悩む人は多くいるようだ。

 ここでは、そんな悩める管理職たちの相談に心理学博士・榎本博明が答えた『「指示通り」ができない人たち』(日経BP)より、「定型文がないと何も言えない」とある部下の事例を抜粋して紹介する。(全4回の2回目/最初から読む

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異動してきた若手の顧客対応がうまくいかない

 就職の採用試験の際にコミュニケーション力を重視するという企業が多いが、それは人とのコミュニケーションが苦手という若者が増えているからだ。だれもが人とのかかわりの中で生きてきているはずだし、そうした経験を通して自然にコミュニケーション力が身についているはずだと思っていると、どうもそうではないケースが目立つようになった。

©Trickster/イメージマート

 そんなコミュニケーションが苦手な従業員に手を焼く管理職は、つぎのような悩みを口にする。

「最近、他の部署から異動してきた若手がいるんです。うちの部署は顧客対応が必要なんですけど、どうもそれがうまくいかないんです」

『これまでは顧客対応をしないで済む部署だったんですか?』

「そうなんです。だから、はじめのうちは先輩たちの対応する様子を観察して学ばせることにしたんです」

『それは大事ですね。初めての職務だと、どう振る舞ったらよいかわからないでしょうからね』

言い方を指摘すると、かなりずれた返答が

「ええ。それで、そろそろ実践の場に出しても大丈夫かと思い、担当させてみたんです。そうしたら、一応コミュニケーションはできてるんですけど、身近で様子を見てる同僚たちによれば、ちょっと言い方がきつかったり、相手がカチンと来るんじゃないかと心配になるようなことを平気で言ったりするので、ハラハラするって言うんです」

『相手の気持ちに配慮した言い方ができていないという感じですか』

「ええ、そうです。それで本人にその点を指摘して注意したんです。でも、どうもよく理解できないみたいなんです。具体的な事例をあげて、もう少し相手の気持ちを考えて言い方を調整してほしいと言ったんですけど、『何でもはっきり言ったほうがわかりやすいと思うんですけど』なんて、かなりずれたことを言うんです」