よかれと思って後輩にアドバイスしているのに「それって説教ですか?」とまるで“意地悪”をしたように受け取られたら……職場を潤滑に進めたい管理職としては、困ってしまうだろう。

 自分の想像を超える行動パターンを示す部下に出くわした時、どう指導したらよいのか。とりわけ受け取り方の歪んだ相手に効果的な指導をする方法は、なかなか答えのでない難しい問題である。

 ここでは、そんな悩める管理職たちの相談に心理学博士・榎本博明が答えた『「指示通り」ができない人たち』(日経BP)より、「アドバイスを意地悪としか受け止めない」とある部下の事例を抜粋して紹介する。(全4回の4回目/最初から読む

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「意地悪されている」と新人から相談が

 職場のトラブルの中には、メタ認知の欠如によるものが非常に多いように思われる。人の言動について、「言い方が酷い。もっと他に言い方があるだろうに」とか「あの態度に傷ついた」など、あれこれ評するのに、自分自身の言動にはほとんど意識が向いていない人が結構いるのだ。そこで、さまざまなトラブルが生じることになる。

 その種のトラブルに振り回されている管理職は、現在進行中の問題について、つぎのように語る。

「新人から『先輩たちから意地悪ばかりされていて、このままじゃどうにも身がもちません』と相談があったんです。でも、これまでこの職場で意地悪をされたといった話は出たことがないし、職場の雰囲気はとても良いと感じていたので、いったいどういうことなのか探るために、新人の日頃の様子やふだんのやり取りについて周囲の先輩たちに聞いてみたんです」

©takasu/イメージマート

『それは良い対応ですね。一方的な言い分だけでは実態はわからないですからね』

物覚えが悪く、足手まといな存在に…

「ええ、そう思いまして。で、周囲の人たちに聞いたところ、その新人が言うのとは真逆のことを言うんです」

『真逆というと、どんな感じなんですか?』

「その新人が、これまでの新人と違って、物覚えが非常に悪くて、いくら教えても間違いばかりするので、ほんとうに困ってる、って言うんです。いわば、足手まとい的な存在になってるようなんです。それでも何とか戦力にしないといけないし、同じことを繰り返し教えなければならず、根気強くアドバイスしているものの、正直言って、ほんとうに手がかかり困ってる、これじゃこっちの身がもたない、って言うんです」

『なるほど。一方は意地悪ばかりされていて身がもたないと言い、他方は同じことを何度も教えるなど根気強くアドバイスしなければならず、これでは身がもたないと言うわけですね』