ご時世的には「不適切」だけど思わず笑ってしまうエッチ系コレクションや、若い頃お世話になった写真集やビデオなど、生前整理の際に一般的には真っ先に捨てられてしまいそうなモノたちを、還暦を過ぎた今も「僕は捨てないもんね!」と持ち続けているみうらじゅんさん。そんなみうらさんが、自身の「いやら収集品」から厳選した100点について書いた『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』(文藝春秋)より一部抜粋して紹介します(全3回の3回目/最初から読む

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 美大時代、メジャー漫画誌に持ち込んだ作品が入選。その賞金でビデオデッキを買ったのだが、まだ出始めの頃で、30万円近くしてた。電気屋のオヤジはその時、「ベータにしますか? それともVHSですか?」と聞いてきたもんだ。

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 僕はどちらでもいいと思っていたので、デザインがカッコイイほうのベータを指差したら「お客さん、ちょっと待ってくださいよ」と、オヤジは店の奥に行って一本のビデオソフトを持ってきた。

「VHSを買われた方にはコレが付くんですがね」

 そう言ってニヤニヤしてた。ソフトだってべらぼうに高い時代。手渡されたパッケージをシゲシゲ見ると『白日夢 愛染恭子の本番生撮り〈淫欲のうずき〉』と書かれてあって、悶絶の表情をした写真が載っていた。僕は「ほーう」とか言いながらパッケージを裏返すと、そこにはトップレスの愛染さんの写真。“ねぇ、VHSにしなさいよォ~♥”と、囁いてきた(気がした)。

 

「コレ、ベータには?」

「付きませんねぇ」

「VHSにするとー」

「付いてきますよ」

 その瞬間、僕の目的はコレを見たさにビデオデッキを買うこととなった。

「配送もできますけど」と、オヤジは言ったが、早くコレを見たいがために重い機械をアパートに持ち帰った。何せソフトはそれしか持ってないもので、そればっかり見てた。いつしか「あいつの部屋はエロビデオ・ルーム」なんて噂が学内まで広まり、友達ならまだしも全く知らない奴からも「今度、見に行っていいか?」などと声を掛けられることに……。

 週末にはアパートの床が抜けるくらい人が集まり上映会。当然、テープの摩耗から画像がひどく荒れた。翌年、とうとうデッキのほうも壊れ、再生することもできなくなった。あの頃、ベータがVHSに負けた大きな理由のひとつは「付きませんねぇ」だったのだ。