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 林は、物事に対してどこか冷めており、大人ぶった振る舞いをしながらも、どこか幼さが滲み出ているキャラクターだ。『ロングバケーション』(フジテレビ系)で一世風靡する少し前、23歳の木村が演じる“平成”の時代を象徴するような若者像がたまらない。「20代の木村拓哉を撮った作品」としてもおさえておきたい一本だ。

右から2番目が当時23歳の木村拓哉(『古畑任三郎』公式Xより)

 ちなみに、1999年に放送された「古畑任三郎 VS SMAP」における木村拓哉は、ぶっきらぼうながらメンバー思いの熱い男として描かれている。

2人の名優の掛け合いが圧巻!

■(4)「古い友人に会う」(第3シリーズ第5話/ゲスト:津川雅彦)

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「古畑のゲストは殺人を犯す」というシリーズの鉄則と視聴者の固定観念を逆手に取った、古畑曰く“最終回に持ってこようとしたエピソード”なのである。学生時代の旧友であり官能小説家の安斎(津川雅彦)から、別荘に招かれる古畑。しかし特別に親しい間柄でもないため、安斎にわざわざ呼ばれた理由が分からないのである。殺されてしまうのは二回り以上年下の妻(三浦理恵子)か、それとも妻の浮気相手である若い編集担当(細川茂樹)なのか。視聴者が推理する中、場面は古畑と安斎2人だけのシーンに移る。

 プロットの上手さもさることながら、なんといっても田村正和と津川雅彦の掛け合いが圧巻! 第1シリーズを彷彿させるような重厚さがありながらも、シリーズとしても新しい形に挑むハイブリッドな回だ。田村と津川の2人芝居は、まるで目の前で舞台を見ているような緊張感を味わうことができる。

第3シリーズ第5話「古い友人に会う」に登場した津川雅彦。2018年に心不全のため、78歳で亡くなった ©文藝春秋

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 2021年に田村が亡くなり、ドラマ『古畑任三郎』の新作が出ることは永久に無くなった。三谷は自身のエッセイで「田村さんがいなくなってしまった今、古畑任三郎が事件現場に戻ってくることはもうありません」と言及している。

 けれど、今回の一挙放送のように、古畑が視聴者の前に現れる日は必ずやってくるだろう。かつてより権利関係のハードルも下がり、いまだ配信されていないエピソードも、いつかお茶の間にやってくるのではないだろうか。そうして私たちは『古畑』を見るたびに、名作の意味を知る。

『古畑任三郎 COMPLETE Blu-ray BOX』(筆者私物)

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。