本作のハイライトは、なんといっても“全力で走る桃井かおり”だ。アンニュイな桃井のイメージを逆手にとった全力疾走は『古畑』屈指の名シーンである。恋人との別れを嘆いたシャンソンの名曲「サントワマミー」が流れる中、夜桜をバックにたか子が恋人を奪った若い女に拳を振り下ろす姿には、なぜかエモさを感じてしまう。検証のために何度も走らされる古畑の部下・今泉(西村まさ彦)にも注目してほしい。
“しゃべりすぎた”せいで足がついてしまう犯人を演じたのは…
■(2)「しゃべりすぎた男」(第2シリーズ第1話/ゲスト:明石家さんま)
第2シリーズはシリーズ唯一の法廷モノであり、古畑とお笑いモンスター・明石家さんまのドリームマッチで華々しくスタートした。タイトル通り“しゃべりすぎた”せいで足がついてしまう敏腕弁護士役なんて、明石家さんまが演じる殺人犯としてこれ以上の設定があるだろうか。ああいえばこういう二人の息をもつかせぬ法廷バトルはテンポ感も最高潮。
さらに特筆すべき点は、明石家演じる小清水弁護士が殺人の濡れ衣をきせようとするのが、なにを隠そう今泉なのである。御令嬢との結婚が決まった小清水は、学生時代からの恋人を殺害。その女に思いを寄せていた同期・今泉を殺人犯に仕立てるのだが、それを知らない今泉は小清水に弁護を依頼してしまうのだ。
産みの親・三谷も認める“史上最低のワトソン”こと今泉の扱いは、常に辛辣なのだが、古畑とはプライベートで番組観覧や習い事教室、ニューヨークやオーストラリアにも行く仲。“友人”の人生を賭けて法廷に立つ古畑の姿には誰もが胸を熱くする。
23歳の木村拓哉が演じる“平成の若者”
■(3)「赤か、青か」(第2シリーズ第4話/ゲスト:木村拓哉)
第2シリーズからもう1本。普段は論理的な物言いで犯人を追い詰める古畑が、初めて“手を上げた”(しかも裏拳!)伝説の回だ。基本的に古畑に登場する犯人たちは、ほとんどが怨恨や痴情のもつれが原因なのだが、木村拓哉演じる林は遊園地で楽しむ人々を無差別に巻き込もうとする爆弾魔。時限爆弾のタイムリミットが迫る中での、古畑と林の駆け引きは最高にスリリングだ。
ここでも不運の今泉は、幽閉された観覧車の中で「赤か、青か」どちらの導線を切るか、大役を任されることになってしまう。