「この案件は通せ! これ断わったら、おまえがどうなっても知らんぞ!」
上司の尽力のおかげで無事、自身が担当した住宅ローンの審査が通過した、新人銀行マン。彼とマイホームを夢見る家族の“その後”のエピソードをお届け。現役行員の目黒冬弥氏による『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記 このたびの件、深くお詫び申しあげます』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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「ぜひわが家に来ていただきたい」
住宅ローンの手続きを終え、3カ月ほどが経ったころ、杉山さんから電話があった。
「先日はたいへんお世話になりました。目黒さんにぜひわが家に来ていただきたいと思っているのですが……」
約束の時間にうかがう。
ダイニングテーブルに着き、小さな子ども2人とともに夕食をご馳走になった。子どもが私に、その日幼稚園であったことを一生懸命説明してくれる。奥さんがシチューをよそってくれ、ご主人がビールを注いでくれた。
「今日はお忙しいのにあつかましくもお誘いして、すみません。こうしてローン審査を終え、マイホームを持てる見込みが立ったのは目黒さんのおかげです」
じつは私はまだ入行して2年目なんです。毎日怒られて失敗ばかりで、今回初めて住宅ローンの手続きをやったんです。段取りが悪く面倒ばかりかけてしまいまして……」
そこまで言うとご主人が遮った。
「初めてなんやろうな、というのはなんとなくわかっていました。でも、そんなことはどうでもいいじゃないですか。私は目黒さんにお世話になったんです。私はこれからも一生懸命働いて、必ずお借りしたローンをお返しします。絶対にご迷惑はおかけしません」
帰り際、隣の住民がたまたま玄関前を通りかかり、杉山さん家族と一緒に門前で写真を撮ってもらった。
お客のためにやったことは、必ず報われる。杉山さん一家は今後数十年にわたり新しい家で暮らしを営み、人生を重ねていく。私はその手助けができたのだ。
銀行員という仕事も捨てたものではない。初めてこの職業の醍醐味を実感した。
あの日、5人で撮った写真は今でも大切に保管してある。
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