余命宣告された娘のために、人工心臓の開発に取り組んだ家族の<愛の実話>である映画「ディア・ファミリー」が公開された。完成披露試写では、主演の大泉洋が「愛する誰かのために何ができるのか、自分以外の人に何ができるのかという映画です」と語りかけて、観客を魅了した。
映画の原作『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』の著者である清武英利が、映画と本の幸福な関係について綴った。
無名人の生涯と幸福な記録を描く
良く生きた人々の人生は、それを見届けた者の数だけ、この世界に幸せな記憶を残していく。
私が知り合った無名人たちは誰一人として、自分の生涯を書き残してくれ、などとは言わなかったが、彼らとその知人が抱える幸福な記憶を広く伝えるのが、ノンフィクションや映像の役割である。
ただ、「原作と映画と、どちらを先に見るべきか」と問われると、言葉に窮してしまう。母と通った映画館と本屋の遠い思い出が、私にはあるからだ。
テレビ愛知の情報番組「キン・ドニーチ」に出演したとき、その質問をまともに浴びた。この日の話題は、心臓病の次女佳美(よしみ)さんを救いたい一心で人工心臓づくりに挑んだ名古屋の筒井宣政(のぶまさ)一家の苦しく、しかし明日に向かう実話であった。
MCの長江麻美(まみ)アナウンサーは、この実話を描いた『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」23年間の記録』(文春文庫)を読んで、目が腫れるまで泣いたという。
それをさらりと明かした後、彼女はこのノンフィクションを基にした大泉洋さん主演の「ディア・ファミリー」が6月14日から全国公開されるので、映画も原作も楽しみながら、筒井家の物語を知ってほしい、と言った。
「原作と映画、どちらを先に楽しむか?」
すると、番組の顔であるお笑い芸人の小島よしおさんが、
「(本と映画)どっちが先がいいですかね」
と原作者の私に振ってきた。
「悩みだなあ」と私が唸っていると、読書家の小島さんは「オレは本だな」。長江さんは「映画を見てからがお薦めです」と意見が割れてしまった。
番組は上映まであと2週間という時期だった。「(長江さんの説だと)上映まで原作本は買ってもらえないですね」と私が異議を唱えると、小島さんが笑顔で議論を引き取った。
「じゃあ、本を読んで映画、それからまた本にしましょう」
「大正解ですね」