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映画「ショーシャンクの空に」「ミリオンダラー・ベイビー」を見て原作を読む

 二人のMCの即妙の掛け合いを聞きながら、私は小学生のころ、母と見た映画を思い出していた。

「にあんちゃん」や「路傍の石」、「鉄腕投手 稲尾物語」……スクリーンを見上げながら、母は前列の暗がりに乗じて、驚くほどよく泣いた。

「にあんちゃん」では、画面の中で、両親を亡くした貧しい在日コリアン兄弟が懸命に生きていた。「路傍の石」では、吾一少年が自立した人間になろうともがいている。昭和の戦争が終結して10年足らず、庶民は貧乏で深い同情心を持ち合わせていた。

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 映画好きの母はハンカチをぐっしょりと濡らし、館内が明るくなると、腫れぼったい瞼のまま大通りの本屋に向かった。

 そこで安本末子の原作『にあんちゃん 十歳の少女の日記』や、山本有三の小説『路傍の石』を買ってくれた。(「稲尾物語」のときには何を買ったのだろうか)

 そのころから、映画の後に原作を読むのが習慣の一つとなった。だから、テレビ愛知の番組では、私は長江アナに与するべきだったのかもしれない。

 そうして、映画「ショーシャンクの空に」の後に『刑務所のリタ・ヘイワース』を、「ミリオンダラー・ベイビー」を見てF.X.トゥールの短編集を、「トゥルー・グリット」でハヤカワ文庫を、「シンドラーのリスト」で、『シンドラーズ・リスト: 1200人のユダヤ人を救ったドイツ人』に巡り合った。

 スティーブン・キングの作品は『スタンド・バイ・ミー』や『ミザリー』など映画から入ったものも多く、仕事に疲れると、キングの『書くことについて』を開いた。

「映画読書法」と呼ぶほどでもないが、映画に触発されて読んだ本は数えればきりがない。

『ノマドーー漂流する高齢労働者たち』や、NASAを支えた名もなき計算手たちを描いた「ドリーム」は映画も原作も胸に沁みた。

 邦画は、「無法松の一生」(『富島松五郎傳』)に始まって、「武士の家計簿」や「おくりびと」に至るまで原作を探した。「おくりびと」に至っては、原作の『納棺夫日記』とノベライズ本の2を読んだ。

©AFLO

松村北斗の演技が、映画「ディア・ファミリー」に与えたもの

 映画の後も読書の楽しみが続くのが良い。フィクションの映画と事実を追う原作、それぞれに違った味わいがあってもいい、という気持ちが私にはある。

 それに映画の後の読書には、映画に登場した人物を原作に探す楽しみもある。松村北斗さんが演じた富岡進医師は、実在の吉岡行雄医師(現在開業医)をモデルにしているのだ。吉岡医師は、筒井さんが心血を注いだ日本初のカテーテル開発を助け、研究論文で博士号を取得した。

 彼は「筒井さん(映画では坪井)、これを人体に使いましょう」と励ましたが、映画では松村さんが「このカテーテルなら、いけます」と叫んでいる。

 熱血医師を松村さんが凛として演じたことで、映画に深みが加わったように思えた。

『アトムの心臓』に私は、筒井家の鈍感開発力や情愛に加え、佳美さんの生への希求と青春を書いた。これに対し、「ディア・ファミリー」は困難な開発と医局の葛藤、そして何よりも家族愛を正面から描いている。

 そこが本と映画の異なるところだが、映画は悲しみの先に佳美さんの命と引き換えにした希望があることを押し出そうとしているのだろう。そこに映画人の気概を覚える。

 映画読書法は、映画の感動をもっと深めたいという欲求であり、映画館の感激を記憶として深いところに留めたいという願いである。

 本か映画か、どちらを先にするにしても、不可能に挑んだ一家と仲間が同時代に確かに生きていたーーそれを胸に刻んでいただければ、原作者としてこれに勝る幸せはない。

©2024「ディア・ファミリー」製作委員会
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『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』を原作とする映画「ディア・ファミリー」が全国で大ヒット公開中!
主演:大泉洋/監督:月川翔/配給:東宝
映画公式サイト:https://dear-family.toho.co.jp/