「絶対嫌だ!こんな歌嫌だ!」「絶対歌わない!」――嫌いに嫌ったタイトルで大ブレイクするとは、なんたる皮肉。デビューまもない中森明菜が歌いたくなかった「のちの大ヒット曲」とはいったい? 80年代の音楽史に詳しい音楽評論家のスージー鈴木氏による新刊『中森明菜の音楽 1982-1991』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

若かりし頃の中森明菜が歌うのを拒否した「大ヒット曲」とは?(写真:YouTubeチャンネル「AKINA NAKAMORI OFFICIAL」より)

「絶対嫌だ!こんな歌嫌だ!」

――「大爆発でした。『絶対嫌だ!こんな歌嫌だ!』と大暴れ。顔を真っ赤にして涙を流し鼻水を垂らして『絶対に歌わない!』と睨みつけてきた。」

『FLASH』(2022年11月29日・12月6日号)の記事、その名も「歌姫・中森明菜のリアリティ 大嫌いだった『少女A』」の中で初代ディレクター・島田雄三が語る、この曲の歌詞を見せられた瞬間の中森明菜の反応。

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 渡邉裕二『中森明菜の真実』(MdN新書)によれば、抵抗した理由は『少女A』の「A」が「AKINA」、つまり自分のことだと勘違いしたからだというのだが。

 そんな中森明菜に対して島田氏は、「この曲を歌うんだよ!これで売れなかったら俺が責任を取って担当を降りる。だから、歌え!」と返したというから、到底穏やかではない。

 しかし、こんな一触即発な雰囲気の中でレコーディングされた曲が、40年以上経った現在においても、中森明菜の代表曲であり続けるのだから、現実はまさに小説より奇なり。

 ボーカルについては、先の『スローモーション』同様、のちの彼女のボーカルを考えると、まだまだ幼く、おぼつかない。それでも『スローモーション』よりも、ある種のパワーが声に宿っている感じがするのは、島田雄三との一触即発の空気のせいなのかもしれない。

 ここでまた白状しなければならない。今回、この原稿を書くために、当時何度も聴いたこの曲を、あらためて何度も聴いたのだが、その度に――笑ってしまったのだ。「ギター、うるさ過ぎるだろ(笑)」と。

 とにかく派手派手しいディストーションギター。それも何本も重ねられている。その上にまた、派手派手しいホーンが乗って、まさにギンギンに盛り上がるあたりを、少々滑稽に感じたのだ。こんなにけたたましいアイドルポップスが、かつてあっただろうか。ギタリストの名前は矢島賢。山口百恵や長渕剛の作品で名を轟かせたギタリスト。だからこの曲はさしずめ、「矢島賢 feat. 中森明菜」とでもクレジットしたくなるようなサウンドである。

 そう、山口百恵――この曲の唐突な派手派手しさも「山口百恵テイスト」と捉えれば、それほど滑稽に感じずに飲み込むことができる。「80年代の山口百恵」を臆面もなく目指したサウンド、それが『少女A』だったのだ。