「石破幹事長」の狙いは二つ
この人事には二つの狙いがある。一つは世論調査で「総理にふさわしい政治家ナンバー1」を独走する石破を、政権中枢に抜擢して支持率アップを図ること。もう一つは総裁選の最大のライバルの芽を摘むことだ。石破を幹事長に据えて総裁選出馬を阻止することは、岸田が勝ち抜くために必要な条件なのだ。
ネックとなるのは、石破嫌いで知られる副総裁の麻生太郎が、この人事に納得するかどうか。しかし岸田側近議員は、「きちんと説得すれば、総理の人事に最後まで反対し続けることはないだろう」と楽観的な見通しを示す。
あとは次期総裁の芽もある石破本人が、幹事長ポストを受諾するかどうかだ。ゴールデンウイーク明け、石破は元総務大臣の武田良太ら非主流派の議員数名と密かに会合を開いた。この中で参加者から、幹事長就任の要請があった場合の対応について質問が飛びだした。石破はしばらく押し黙った後、こう答えた。
「それは受けざるを得ないと思う」
予期せぬ答えに一同が驚き、こう詰め寄ったという。
「幹事長を受けたら、あんたは終わりだぞ。俺たちの構想も狂う」
会合の後、ある参加者はこう呟いた。
「石破は本当に政治のセンスがない。肝心なところで勝負できない」
この数日後の5月14日、石破は小泉純一郎、山崎拓、亀井静香、武部勤というかつての自民党重鎮の会合に呼ばれた。目的は次期総理候補と目される石破と意見交換しておこうという趣旨に他ならない。その席で小泉はこう諭した。
「総理になるために必要なのは、義理と人情と運だ。俺も総裁選に2度敗れて、もう出たくなかった。ただ仲間から懇願されて、嫌だったけどしぶしぶ出たらブームが起こった」
石破は黙って聞いていたが、「当面岸田内閣を支えることに徹する」と話すのみで、何の言質も与えなかった。会合の後、石破は周囲にこう語っている。
「みんな私が総理になりたいのだと誤解しているんだよ。それならもっと上手に立ち回っている。ただ、なりたくないって言ったら自己否定になるでしょ」
とすれば石破は、やはり幹事長就任の要請を受けるのか。
「仮に幹事長の話が来た場合、受けるかどうかは決めかねている。このままでは自民党は、60も70も議席が減るでしょう。自分が幹事長になって救われる議員がいるなら、役割を果たしたい気持ちもある。ただ岸田さんが何を考えているのか問わないわけにはいかない。何で自分なのか。麻生さんや森さんの支配から脱却する覚悟があるのか」
石破幹事長が実現するのか、総裁選で岸田vs石破の戦いとなるのか。その行方はまだ不透明だ。