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労働組合が東京駅の自動販売機を空にした日

労働組合が東京駅の自動販売機を空にした日

ブラック企業との「順法闘争」とは一体なんだったのか

2018/04/23
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労基署に通報した組合員を懲戒処分へ

厚生労働省は「働き方改革」を進めているが…… ©文藝春秋

 また、同社ではほとんどの社員が休憩1時間を取れず、食事も満足に取れていなかった。業務量自体が過剰であり、何時間外回りしても残業代が払われない以上、早く帰るために休憩を取らないという労働者も多かった。

 ところが上記の面談で、会社は毎日1時間の休憩を丸々取れていたとして、同意書にサインさせていた。中には「休憩を取れていなかった」と、面談で1時間くらい粘ったにもかかわらず、無理矢理サインさせられた労働者もいた。

 このように、現場の実態を全く顧みず、労働基準監督署の行政指導に対して少額の金額でごまかすのは、偽装「働き方改革」にほかならない。このことに怒った労働者たちが、実態を認めて残業代を払うようにと、ブラック企業ユニオンに多数加入したということだ。

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 それだけではない。今回、ブラック企業ユニオンが順法闘争に踏み切った理由はもう一つある。それは、残業代未払いをはじめとした労働問題を率先して問題化し、労働基準監督署への申告を行った現役社員の組合員に対して、ジャパンビバレッジが懲戒処分を検討しているからだ。

 残業代を請求した労働者を狙い撃ちした可能性が高い。今回の順法闘争は、この懲戒処分に対する抗議の意味も大きいという。

「働き方改革」の限界と労働組合の意義

 現在、政府による「働き方改革」が進められており、ジャパンビバレッジ東京に対しても、労働基準監督署が是正勧告を出したのは前述のとおりだ。

 しかし、ジャパンビバレッジ東京は「労基署とは見解が異なる」と行政指導に従わず、水面下では、面談で未払い残業代をごまかしている。さらに労基署に通報した社員に対して、懲戒処分をしようとしている。こうした「働き方改革」の裏をかく悪質な手口に対して、労働基準監督署は何も対応できていないのが現実だ。

©iStock.com

 この状況を打開しようとしたのが、今回のブラック企業ユニオンによる順法闘争だったというわけだ。実は、労働組合はある面では「特別の力」を持っているのである。

 簡単に説明すると、労働組合に入ることで、労働者は会社と「団体交渉」と「団体行動」を行うことができる。会社は団体交渉を申し込まれると、誠実に応じる義務があり、無視すると法律違反になってしまう。また、労働組合は、街頭宣伝やストライキなどの団体行動を合法的に行うことができ、刑事上の処罰や損害賠償請求からも免責される(つまり、正当な組合活動であれば、会社に迷惑をかけても損害賠償の対象にはならない)。

 とはいえ、会社の中に労働組合がなかったり、会社の中の労働組合が頼りなかったりという場合も多いだろう。そこで、会社の外部の個人加盟ユニオンがおすすめだ。今回のブラック企業ユニオンも、どのような会社や業種で働く人でも入ることができる労働組合である。

 今回の順法闘争を受けて、ブラック企業ユニオンでは5月6日にイベントを開催する。順法闘争の経緯や、組合員の労働実態などを、組合員自身の発言や映像を通じて報告し、ブラック企業との闘いかたを多くの人に知ってもらうための企画だ。筆者もゲストとして発言する。自分も労働組合でブラック企業と闘ってみたいという人は、ぜひ参加してみてほしい。

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