現代の日本社会には、若者を食い物にする「ブラック」な仕組みが満ちあふれている。

 その嚆矢ともいえる「ブラック企業」は、若者(特に大学新卒)を大量に採用し、過酷な労働で使い潰す企業のことを指す。彼らの労務管理の重要な点は、彼らがあたかも好待遇であるかのように「正社員」として採用する手法を採っていることにある。「人手不足」が言われてはいるが、失業者や非正規労働者は今でも少なくない。ブラック企業にだまされる若者は後を絶たないのが現状だ。

 間もなく就職活動シーズンを迎えるが、本稿ではブラック企業の特徴である「異様な採用選考」を扱う。過酷な労働に従事させるべく、大量採用した若者を戦略的に心理的に追い詰めていく、あくどい手法の実態と対処法について、実例をもとに解説していこう。

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13人いた同期は半年で8人が辞めた

 私が代表理事を務めるNPO法人POSSEでは、日々若者からの労働相談を受けており、総数は年間2000件を超える(連携するユニオンを含めると、4000件に及ぶ)。まず、その中から、今回のテーマである「異様な採用選考」の実例を紹介する。

 問題の会社(以下、A社)はフェイシャルエステを行う小規模の企業である。被害者は、大学新卒で同社に入社した。自分が敏感肌で、ケアすることで肌の状態に大きな差が出る経験をしていたため。同社では、痩身でなく、「肌をきれいにする仕事」ができると思って応募した。

 だが、この入社先がまさにブラック企業だった。求人情報では勤務時間は「12時~21時」とされていたが、実際は10時から23時半まで当たり前に働かされた。また、リクナビの募集要項には、給与が基本給15万1000円、職務手当3万だと書かれていたが、実際にはこの3万円分は「残業代」だと入社後に知らされた(典型的な「求人詐欺」である)。

 長時間労働から体調を崩し、13人いた同期は半年で8人が辞めた。中には医師の診断書を渡しても休ませてもらえなかった社員もいた。彼女は親が強制的に連れて帰ったという。相談に訪れた本人も適応障害と診断され、休職せざるを得ない状況に陥っていた。

 A社はまさに、大量に新卒を採用して長時間労働で使い潰す、典型的なブラック企業だといってよいだろう。

優雅なイメージのあるエステ業界だが…… ©iStock.com

採用選考の段階ですでに異様だった

 さて、このブラック企業・A社は、採用選考の段階ですでに異様だったという。その選考は、企業の研修などを請け負う「株式会社X」によって運営されていた。

 採用される本人たちにそれがわかるのは、2次選考に入ってからだ。担当者の「私はこの会社の人じゃない」との発言ではじめて分かったのだ。採用選考で行われた内容を簡潔にまとめると、次のような経過だった。