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「コントロールできない」ことが“病気の本体”と思われていたが…依存症の専門が語る、日本人の「水原一平への誤解」

2024/06/27
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水原氏の大谷選手に対する言動の背景

 よく考えれば、妻と酒が二者択一になることは正気の沙汰ではない。エチルアルコールと人間(配偶者)を天秤にかけられるはずがない。しかも彼らは人間(配偶者)を捨て、エチルアルコールを選ぶ。

 水原氏の行動も同じだ。生活をともにしている妻にも隠して野球賭博を続けていたことは、妻よりギャンブルを優先していたからだ。この狂気ともいうべき転倒した価値観を抱くようになること、それが依存症という「病気」の本体なのだ。

 水原氏の大谷選手に対する言動もこれで説明がつくだろう。傍にいて通訳だけでなく私生活のめんどうまで献身的に行っていたことも、スポーツ賭博の負けが込んで返済の金に困っていたからかもしれない。

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 大谷翔平の信頼をかち得て預金を自由に使うのが目的だったと考えることもできる。しかしそんなに計画的だったとは思えない。むしろ巨額の契約料とCM料を稼ぐ大谷翔平をバックにする水原氏が、ブックメーカーから借金を踏み倒されることがない格好の獲物として狙われたという気がする。

 いつから水原氏が大谷の預金に手を出すようになったのかはわからないが、賭博の負けが込むことで、次は絶対に勝って借財(負債)を挽回しなければという思いが強くなる。いまやギャンブルはスマホの操作で可能になるため、競馬場やパチンコ店に行く必要もなく、極論すればスマホさえあればいつでも賭博に加われる。

 報道によれば、胴元からの連絡もスマホだったようで、のめり込む速度も速かったのではないか。こうして彼の価値観の中心がギャンブルに収れんされていったのだろう。

※依存症治療の基本やや海外で「回復者」がどのように扱われているか、そして日本社会が「回復者」に理由について解説した全文は『週刊文春WOMAN2024夏号』でお読みください。

のぶたさよこ/1946年岐阜県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業、同大学院修士課程家政学研究科児童学専攻修了。駒木野病院勤務、CIAP原宿相談室勤務を経て、1995年原宿カウンセリングセンター設立。現在に至る。

「コントロールできない」ことが“病気の本体”と思われていたが…依存症の専門が語る、日本人の「水原一平への誤解」

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