止まらない水原一平バッシング。「依存症は病気である」という認識はなぜ日本社会に浸透しないのか。
依存症の第一人者・信田さよ子さんが、水原氏に関連した報道の背景を解説した連載「女性と依存症、そしてトラウマ」第4回より一部抜粋する(『週刊文春WOMAN 2024夏号』に全文掲載)。
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少し時間が経ったが、なんといっても3月のビッグニュースはドジャース大谷翔平選手の元個人通訳・水原一平氏の野球賭博の事件だろう。メジャーリーグ戦が韓国で開催されるため、専用機で出発前に大谷翔平が真美子夫人と一緒に写った写真がインスタグラムに初めて投稿されたことも大きな話題になったが、それよりはるかにインパクトが大きかった。
通訳として常に大谷と同行し、理想的バディのように持ち上げられていた水原氏が、多額の借金を抱えており、返済のために大谷の預金口座からお金を支払っていた理由が、彼のスポーツ賭博であったことがわかったからだ。
私の頭の中ではすぐに、賭博=ギャンブル、つまり水原氏はギャンブル依存症という連想が働いた。その後の報道で、事件が発覚した日の試合後、彼はドジャースの選手仲間全員に対してこれまでのことを謝罪し今後仕事から外れることになると述べ、「僕はギャンブル依存症だ」と発言したことがわかった。
ギャンブル依存症という言葉が世の中に広がったのは、国会でのIR推進法(統合型リゾート推進法案)をめぐる論戦において、反対派の議員が「カジノができるとギャンブル依存症が増える」ことを論拠にした時だ。しかし水原氏の一件の話題性はそれとは比較にならないほど大きく、ギャンブル依存症がメディアのトピックに躍り出た。
捜査が進むうちに報道の論調はどんどん水原氏に対して厳しくなっていった。「あそこまでひどいことがなぜできる」という驚きもあるだろう。大谷翔平の口座から引き出した金額は一般庶民からは想像できないほどの巨額である。
それを詐取していながら何喰わぬ顔で大谷の通訳をしていたこと、6年前には結婚しており妻をも騙していたことなどが強調されるようになった。メディアは無責任なもので、教科書の題材になるほどバディとして水原氏を持ち上げていたのに、とんでもない嘘つきへと扱いが180度変わったのである。それに伴って、精神科医による「ギャンブル依存症になるのは幼少期のトラウマが……」的な彼の生育環境の解説まで登場するに至った。
さて、ここでは水原氏の事件の詳細を述べることが目的ではない。むしろ量刑が決まり、水原氏が司法制度でどのような処遇を受けるのか、その後彼がどう生きるのか、ギャンブル依存症からどのようにして回復するのかという未来について考えてみたい。