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普及すれば誰が困るか

 では、なぜ日本ではこの制度が普及していないのか。その答えは、リフィルが普及し、花粉症や慢性疾患の患者がリフィルを使って、薬局で簡単に薬が買える状態になった場合、誰が困るかを考えれば分かる。

 これらの患者が、通常訪れるのは近くの診療所(クリニック)だ。もしリフィルが普及すれば、薬をもらいにくるだけの患者は減ることになる。その結果、診療所の医師にとっては、もっと時間をかけるべき重症の患者に集中できるというメリットもある。一方でデメリットも大きい。こうした手間のかからない楽な患者が減ることによって収入が減ってしまう。経営問題になるのだ。

©時事通信社

 我々は、このデメリットが診療所にとって大きく、医師が普及を拒んでいるのではないかと推測している。だから、医療機関でリフィルを推奨されることがないのではないか。現実にリフィルを拒む運動をしている医療団体もある。そもそも、医療機関がリフィルを使わなくとも法的な問題はないのだ。

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 しかし、もしこの推測が正しく、それゆえにリフィルが普及しないのであれば、診療所の収入(既得権)を守っているにすぎない。患者の目線で見れば、本末転倒だ。

 厚労省は、先のアンケート調査と同じタイミングで、リフィルの普及率を公表している。なんと、2022年に制度がスタートして以降の約半年ごとの処方箋全体に占める割合は、順に0.04%、0.05%、0.05%だ。我々メンバーでリフィルを使った者が誰もいないのも当然だ。そんな制度、現時点では存在していないのと同じである。

 もう一つ別の実例を出そう。新型コロナが蔓延する前のことだが、グループの一人が経験した話だ。

 彼には当時、小学校低学年だった2人の子供がいる。ある冬のこと、彼自身が高熱を発し、妻の運転で近所のクリニックに行った。職場でインフルエンザが流行っていたので確信はあったが、案の定、インフルエンザとの診断を受けた。薬局に寄り、タミフルをもらって帰った。ちなみに薬局は家から徒歩圏内にある。

 帰宅後、家族と隔離して寝込んだのだが、翌日には妻と子供2人が同時に発症した。家族4人がかなりの高熱だ。彼自身も、まだ車を運転できる状態ではない。前日に行ったクリニックに電話をし、「往診は可能か」と聞いたが、「やっていない」。「みんなインフルエンザだと思う。薬だけでももらえないか」、「診察しないと薬を出すわけにはいかない」、「何とか自分だけ行くから家族分の薬をもらえないか」、「それは、無理」。

 こうした押し問答が続き、結局、らちが明かず、インフルエンザに違いないという確信の下、その日は寝て過ごすことにした。妻はやむを得ず、彼のタミフルを飲んだ。子供に飲ませるのは心配だったので、氷枕や熱さまシートで様子を見ながら不安な1日を過ごした。

 そして翌日、熱が下がって運転もできるようになったので、子供を病院に連れて行った。自分が行ったクリニックには腹が立ったので、別の病院を受診。ちなみに、その病院には別の疾患で来ている高齢の患者も多く、インフルエンザをうつしてしまわないか心配だった。

※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「開業医の既得権を打破せよ」)。