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<安倍昭恵さんも登壇>妹を殺された男はなぜ「元犯罪者」に手を差し伸べ続けるのか? その葛藤に10年密着した『おまえの親になったるで』

相澤冬樹のドキュメンタリー・シアター

2024/06/30

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画, ライフスタイル, 社会

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 思わず目を手で覆い、涙するタイチ。二人は固く抱きしめ合う。

 「おまえの家族になるって言われたのが一番うれしかったですね」

© Television Osaka

 それでもタイチは信頼を裏切る。住まいを用意してもらい、会社で働き始め、結婚し娘も生まれるが、傷害事件を起こして逮捕。そりゃあ、ぼやきたくもなる。

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「みんなに言われるけど、『なんでこんなことやってるんですか?』って。みんな勝手なこと言うけど、誰かがやらんとなあ。『甘やかしすぎちゃいますか?』言うても、きつう言ったらどっか逃げていくしなあ」

生まれは岸和田、先生が「日本一悪い」というくらい“やんちゃ”なコミュニティ

 実は私は7年前から草刈さんのことを知っている。大阪の起業家ら300人余りが参加する異業種交流会『堀江倶楽部』のメンバーとして。出所者と映画への思いを聞いた。

「映画に出てる奴らはまだいいんですよ。本当にこけてしまって、覚せい剤やギャンブルに走って、金を持ち逃げしてそれっきり、なんて奴もいっぱいいます。初めのうちは『すぐやめよう』と思ってましたけど、加害者作らへんことで被害者できへんやんという思いがあって」

 生まれは、荒々しいだんじり祭りで知られる大阪府南部の岸和田市だ。

「中学はあの清原(和博氏・元プロ野球選手)と同じで、先生が『日本一悪い』というくらいのところ。“やんちゃ”あふれるコミュニティで育ったんですよ。だから周りにもいっぱい“そういうこと”がありました。いろいろ“慣れて”いるんです」

 出所者の再犯率は50%近い。背景には“親”の有り様が大きいという。

「親に愛された経験があるかどうかは大きいですね。犯罪を思いとどまるレッドライン、ブレーキのかけ方が違います。自分が守らなければいけない存在、信頼を裏切ってはいけない存在がいない。『親に心配かけるな』というごく普通の感覚がないんです」

草刈健太郎さん ©相澤冬樹

「だから僕は『おまえの家族になったる』と言うんです。僕だけじゃない。会社の人、寮の人、みんながおまえのことを心配してるファミリーなんや。おまえら、人様に迷惑かけてるんやから“倍返し”せえと」

 映画の終盤、タイチは、同じく草刈さんの下で働く兄の支えで立ち直る。

「親の温かさを知らない中で育ったんですけど、やっぱりそれでも僕は幸せになりたい。自分の人生をまっとうする責任が絶対に大事なので」

 なによりグッと胸に詰まるシーンだ。