「プレバト!!」で人気の俳人・夏井いつき氏。キャスターの有働由美子氏との対談で、「毒舌」とも呼ばれる番組での指導について語った。有働氏が持参した俳句への講評は、いかに?

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怒鳴り合ってきたのでノドが痛い……

 有働 今日は『プレバト!!』(TBS系)の収録後に駆けつけて下さって、ありがとうございます。

 夏井 梅沢(富美男)のおっちゃんと、相変わらず怒鳴り合ってきたのでノドが痛いですよ。

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 有働 (笑)。芸能人の方に事前にお題を出して俳句を作ってきて貰い、夏井先生が採点する「俳句の才能査定ランキング」のコーナーが始まってもう11年目になるんですね。

『プレバト‼』について語る夏井氏 ©文藝春秋

 夏井 ずっと赤ペンを振り回して、梅沢のおっちゃんとケンカしてるんだと思ったら、感慨深い気持ちになります。コーナーが始まったころなんて、うちの家にはテレビが無かったんですよ。

 有働 え!

 夏井 私、テレビを観ると30秒で感情移入して、ずーっと見ちゃう。仕事が手につかなくなるんです。それで引っ越しのタイミングで捨てた。だから、テレビに出始めた頃は流行っている芸能人が全然わからなくて。知っていたのは梅沢富美男、和田アキ子、泉ピン子くらい。

 有働 超大物だけ(笑)。

 夏井 AKB48が出てきたときも「この女の子、何の組織? KGBみたいなやつ?」と思ったほど。

 有働 怖い組織じゃない(笑)。番組では夏井先生は、大御所だろうとアイドルだろうと、歯に衣着せぬ発言でビシバシ指導されていますが、番組のスタッフから「もっと厳しくしてください」とか、やっぱりリクエストがあるんですか?

 夏井 いえ、まったく無いんです。よく「毒舌だ」と言われますけど、私としては、俳句に対して正しい指摘を淡々と言っているだけ。世間に「俳句は上品なもの」という思い込みがあるから、毒舌であるかのように見えてしまう。不思議な現象が起こっているんです。

ダメな作品はダメ

 有働 確かに俳句って、優雅で、句を詠む人は慎ましやかで、控えめな世界だという印象が……。

 夏井 すみません、控えめじゃなくて(笑)。

 有働 失言でした。ただ、先生の登場で多くの人が、俳句ってこんなにフランクな世界なんだと知ったと思います。他の俳人の方々もそうなのですか?

句会に興味津々だった有働氏 ©文藝春秋

 夏井 俳人が作品を批評し合う句会では、みんな言いたい放題ですよ。良い作品は良い、ダメな作品はダメとハッキリ言う。正岡子規の時代から、作品に対して議論をして技術を磨いていくのが伝統なんです。去年亡くなった師匠の黒田杏子(ももこ)先生の世代の俳人たちは、しょっちゅうケンカをしていました。だから、しょっちゅう協会が分裂する。

 有働 分裂まで!

 夏井 でも、ケンカにはなるけど、作品に意見を言っているだけで、その人の人間性を罵倒しているわけではない。そこは、みんなはっきりしているんです。

 有働 私は句会に出たことがないですが、自分が作ったものにダメ出しされたら、「一生懸命作ったのに……」と、人格ごと傷ついてしまいそう。

 夏井 分かる。でも、それは長いものを書く人たちの方が、傷つき度合いが強いんですよ。だって、小説は、とんでもない時間をかけて書き上げるでしょう。たった七七の14音多いだけの短歌だって、自分の思いを伝えたくて作るところがある。そうすると、自分自身を否定される気持ちになりがちです。でも、俳句は短いし、自分の内面を切々と語るというより、目の前にある面白い風景・事象をパズルのように組み合わせていく勝負。ケンカもするけれど、「これが駄目なら、次はこの手でどうだ!」と、ワンジャンプで復活できる。それが魅力ですね。

 有働 それって正岡子規の時代から、みんなそうなんですか?

 夏井 子規さん自身がメチャクチャ明るい人だったし、人と騒ぐのが大好きだったから、そうでしょうね。詩人・歌人・俳人が集まるパーティーで酒を飲んでワーワー騒いでいるのは、たいてい俳人だっていう例えがあるくらい(笑)。