小田急線豪徳寺駅から歩いていると、3分もしないうちに、「バシッ」という小気味いい音が聞こえてきた。キックがミットを捉える音だ。
キックボクシングジム「PEACE PACE」。併設された整骨院「PALLEDO」とともに株式会社PALLEDOが経営している同ジムには、「70歳以上」を対象とした、珍しいシニア向けコース(月額3300円)がある。SNSでは90歳を超える高齢者がエクササイズする動画がアップされ、話題を呼んだことも。
ここでは、93歳のジム生・川崎榮子さんへのインタビューを紹介。ライフステージが進んでからの運動と健康、日常生活における楽しみの見つけ方を考える。
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90歳手前でのジムデビュー
壁にはミットがかけられ、サンドバッグが宙吊りにされている。使い込まれたものはそれなりの傷みがあり、練習の痕跡を感じさせる。正真正銘のキックボクシングジムだ。
筆者の前に現れたのは、93歳の川崎榮子さん。
シンプルな服装に姿勢の良さが映える。かくしゃくとしたご婦人だ。会釈をすると、「昔からあまりしゃべるのが得意じゃなくて、無口と言われてきたものですから」と照れた。
川崎さんが「PEACE PACE」を訪れたのは4年ほど前。きっかけはお孫さんの紹介だった。
「夫は他界していますが、娘とその子どもが気にかけてくれて、しばしば一緒に出掛けています。あるとき、いつものように一緒に買い物へ行くと、孫が私の歩き方が気になるというんです。確かに、90歳手前くらいから、右足を引きずって歩くようになっていました」
歩きづらさはあったが、病院で検査などをして重篤な病気などがないことは確認していたという。
「『良さそうなところがあるから』という孫に連れてこられて、整骨院『PALLEDO』にお邪魔したのが最初でした。はじめのうちは施術だけを受けて、徐々に歩き方のぎこちなさが和らいだころ、ちょっとした運動になればとこちらのジムにお世話になることにしました」
高齢者がキックボクシングと聞くとイメージのギャップに驚くが、川崎さんは穏やかに笑ってこう言う。