「これが誹謗中傷だ」という明確なラインとは?
――マンガでは、人妻への誹謗中傷の言葉として《ブス》《ヤリマン》《肉便器》などが出てきます。
これはあからさまな侮辱表現に思えますが、実際の誹謗中傷トラブルでは、もっと婉曲的な表現も問題になるようです。
「こんな言葉は侮辱」「これを超えたらアウト」などのボーダーラインはありますか。
清水 実は、「これが誹謗中傷だ」という明確なラインは、ありません。
――え、そうなんですか?
清水 まずお話ししたいのが、《誹謗中傷》とは法律用語ではない、ということ。一般の方々にとって、誹謗中傷は「自分にとって不快な言葉すべて」という認識だと思うんですね。
しかし、私たち法律家は「不快な言葉を受けたことが、法律上の何にあたるのか」を見ます。具体的には、名誉毀損、名誉感情侵害、プライバシー権侵害などです。
言葉の「背後」にあるものを見る
――名誉毀損と名誉感情侵害は、どう違うのですか。
清水 名誉毀損は「他人が自分に与える評価」で、社会的評価の低下を招くものとされています。
一方、名誉感情侵害は「自分が自分に与える評価」。わかりやすく言うと、不快感や嫌悪感など、自分の感情ですね。
――では、実際の相談では「どんなひどい言葉を書かれたか」を詳細に聞きだす?
清水 お話はもちろんちゃんと伺いますが、私たちは誹謗中傷の言葉だけで判断しているわけではないんです。
――というと?
清水 誹謗中傷の書き込みに至るまでの経緯、どういう文脈で書かれたのか、書き込みの頻度はどれくらいか、などを見ていきます。
なぜかというと、たとえば「《結婚詐欺師》と言われて不快だ」と主張する人がいるとします。ところが、その人物が実際に詐欺的な行為をしていたら、「そう言われても仕方がないのでは」となりますよね。
――そうですね。「おまえが言うな」ですね。
清水 ですから、誹謗中傷をされたとしても、そこに至るまでの背景を冷静に見る必要があるんです。