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学歴コンプレックス

 そんな母親には学歴コンプレックスがあった。「学歴の高い人」に憧れを持っていたため、北海道大学卒の父親と結婚したようだ。

「母自身、お金がない家に育ったので、子どもには教養を与えたいという感覚がかなりあったようです。しかし、長男も次男も勉強や文化的なことよりスポーツが得意で、三男の僕がドンピシャだったんですよね。文化的なものが好きな母親の好みに……」

 家にあった画集やクラシックのCD、分厚い児童文学全集などを、読んだり聴いたりして楽しんだのは、きょうだいの中で中川さんだけだった。

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 やがて高校受験を迎えた中川さんだったが、通える範囲には、偏差値50を切る普通科の高校が1校だけ。あとは商業高校と工業高校しかなかった。中川さんは普通科の高校に入学すると、常に学業成績上位をキープ。教師からは、「東大にも行けますよ」と言われた。

 すると、それを聞いた母親の期待は跳ね上がってしまう。

『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』より

「さすがに僕自身は東大に行くイメージが湧かなかったんですが、母はすごく嬉しかったんでしょうね。でも、北海道の田舎町だったので、そもそも進学塾がない。塾に行かせるお金もない。高校の先生たちも、英語の先生以外は東大レベルの先生なんていなかった。本屋さんもないんですよ。唯一あったTSUTAYAに行っても、大学受験の棚は少ないし、東大レベルの問題集なんて置いてなかったんです」

 それでも独学で勉強して東大を受けたが、結果は不合格。

 中川さんは浪人を決意し、自宅で勉強を続けることに。

 ところがある日のこと。母親からこんなことを言われる。

「そんな辛気臭い顔やめてくれない? こっちまで気分が滅入るわ」

 中川さんは愕然とした。

「受験に失敗しているのですから、やっぱり落ち込んでいるわけです。なのに、『気分が滅入るから、辛気臭い顔やめろって……常に笑顔でいろってこと?』って思いました。今振り返ると、母親から言われたこの言葉ってモラハラとかDVとかと本質的にすごく近い部分があって。お金もないし、塾とかにも行かせてもらえなかったしっていう結構腐った気持ちもあったうえ、問題解決が不可能な状況なのに、落ち込む感情でいることを許されなかったことに深く傷つきました」

 こうしたことが何度あったのか、いつあったのか。中川さんの記憶は曖昧だ。しかしおそらく母親は、心無い言葉を口にし続けたのではないだろうか。その度に中川さんは深く傷つき、ついに堪忍袋の緒が切れたのだと想像する。

 あるとき、中川さんは突然泣きながら暴れ出し、リビングにあるものを手当たり次第に壊しまくった。手に負えなくなった母親は、近くに住む長男を呼んだ。長男が駆けつけたときには、中川さんはめちゃくちゃになった部屋の真ん中で、うずくまって泣いていたという。

 その何日か後、中川さんは家出をした。