「あなたのために、よかれと思って」していたことが、妻への“加害”だったと気づいた中川瑛さん。妻との関係を改善した後に、かつての自分と同じ加害者が変わるための支援をする自助団体「G.A.D.H.A(ガドハ)」を立ち上げ、“モラハラ”加害者の変容を描いたコミック『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(KADOKAWA)では、原作者を務めている。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、中川さんの半生と「トラウマ」、そして中川さんに起きた変化についてのインタビューだ。
旦木さんは、自著『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)などの取材をするうちに「児童虐待やDV、ハラスメントなどが起こる背景に、加害者の過去のトラウマが影響しているのでは」と気づいたという。
親から負の影響を受けて育ち、自らも加害者となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。そんな仮説のもと、中川さんに負の影響を与えたであろう、幼少期の体験に迫る。(全3回の1回目/続きを読む)
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「お前は馬鹿だ!愚かだ!間違っている!」
関東在住の中川瑛さん(32歳)は、24歳のときに1年のフランス留学から帰ってきた後、イベントで同い年の女性と意気投合し、1年ほどの交際を経て結婚した。
「僕自身はあまり結婚ってことに関心はなかったんで、別にしてもしなくてもいいって感じだったんですけど、妻が『大学院が終わるタイミングで家を出たい。同棲はNG』という状況だったため、結婚しました」
2人は2017年2月に結婚。
ところが結婚生活は「幸せ」とは言えないものだった。
結婚から2年経った頃、妻は、勤め先での激務に蝕まれてうつ病を発症。
休職した妻に対し、中川さんはこう言った。
「辛い辛いってあなたは言うけど、それは実力の問題でもあると思うよ。◯◯とか××ということをやった上で、マネージメントに対しては△△をやらないからあなたが問題なんじゃないの?」
SNSを見ていた妻が、あるタレントを「カッコいい」と言ったとき、中川さんは怒り狂った。
「僕と結婚してるのに、他の人をカッコいいって言うのは僕に失礼だろう!」
そして、妻が休職してから1年が経とうとしていた頃。
「この1年どうだった? 休めて良かった?」
中川さんが尋ねた。すると妻は、
「全然。ずっと死にたいって思い続けた1年だった」
と答えた。途端、中川さんはテーブルを叩き、大声を上げる。