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「俺がこの1年間、ずっとお金を出し続けてお前の生活全部を支えてきたのに、お前はそれに対して感謝もなければ嬉しさもなくて、『ずっと死にたかった』だと? それ失礼だろ? 何で分からないんだ! お前は馬鹿だ! 愚かだ! 間違っている!」

 このときのことを、現在の中川さんはこう振り返る。

「その時の自分に対して、かなり強い殺意が湧いてきます。どれだけひどいことを、妻が傷つくことを言ってきたんだろう。現在の妻は、僕に言われたことをあまり覚えてないんですよ。記憶が飛びまくってるんです。解離してるんですよ。記憶を失くすほど、耐えられないほどの痛みや傷を妻に与えてきたのが自分だと気付いたときも、自分に殺意が湧きました……」

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中川さんが原作者として発表したコミック『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』より

 中川さんが妻にしてきた言動は、中川さん自身が育った家庭の家族から受けてきたものと同じだったという。

噛み合わない両親

 北海道出身の中川さんは、北海道大学を出たサラリーマンの父親と、短大を卒業した母親のもと、4人きょうだいの三男として生まれた。中川さんの下は妹だった。

 中川さんが物心ついた頃、父親は遠方にある職場に自分の実家から通勤しており、平日は不在。存在感が薄かった。

「父はもともとあまり喋るタイプではなく、理屈っぽくて、人の気持ちがわからない人でした。多分、子どもに興味がないわけではないけれど、大して子どものことをわかっていないのに、時々上から目線で、僕からすると意味のわからないアドバイスをしてくるんです。小さい子どもなら身体を動かす遊びで満足するので仲良くできますが、成長して意志を持つようになると、喋れない父は仲良くなれないんですよ」

 そんな口数の少ない父親だったが、こと母親に対しては少し違った。

「馬鹿だとか頭が悪いだとか、なんでこんなこともできないんだみたいなことは、夫婦喧嘩というか、すごい陰湿な感じで僕たちの前でもチクチクと言い続けていました……」

『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』より

 また、アルコールが入ると人に絡んできた。外出先で父親がお酒を飲むと、帰りは母親が車の運転を代わる。すると助手席で、「運転が下手だ!」「あっちから車が来ているのが見えないのか!」などといちいち口を出し、場の空気を悪くした。

「いま考えると、母が多分、かなり強いADHDで、注意欠陥系なんですけど、時間感覚が全くなくて、家族で旅行に行くときなんかも出発時間を全然守れない。そうすると父は、もう何十回も、毎回準備の時間がどうだとか、なんでこういつも待たせるんだとか言って必ずキレてて、すごい険悪な空気で家族旅行が始まるんです。『母はもう、どう考えても時間が守れない人なんだから、鷹揚に構えてりゃいいのに、毎回毎回イライラしてて、頭悪いなあ』ってずっと思ってました」