※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2024」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】川村 ガロン 横浜DeNAベイスターズ

東京都在住の会社員。ベイスターズが日本一になった1998年当時は「右手に週べ、左手にsnoozer」の帰宅部高校生。その後、開幕投手とミッシェルとくるりの曲からハンドルネームをつけるなど、大いにこじらせたまま現在に至る。文春野球フレッシュオールスターは3年連続ベンチ入りを経て初の本戦出場。牧秀悟が命の恩人。

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 横浜スタジアムの逆さみかん氷をご存じだろうか。今頃のような暑い盛りに召し上がったことのある方は膝を打つかもしれない。そして、つい少し前のわたしと同じように「なにそれ知らない」と興味を持たれた方。その方にはたいへん申し訳ないが、お伝えしなければならない。

 2024年現在、横浜スタジアムで逆さみかん氷は食べることができない。しかしそれは、それほど悪い話ではないかもしれない。

ヘルメットみかん氷 ©川村 ガロン

なかなかに衝撃的だった「逆さみかん氷」

 みかん氷は横浜DeNAベイスターズの本拠地、横浜スタジアムの名物として知られている。かき氷の上に缶詰のみかんをのせた、名は体を表すにもほどがあるシンプルな食べ物だ。2013年にみかん氷を取材した新聞記事*によると、発売を始めたのはベイスターズになって2年目の1994年。当初は三塁側内野席の1か所だけで売られていたが、人気の高まりとともに徐々に販売する場所も増えたという。1店だけで一日1600杯、年間3万杯を売り上げるそうだ。1600杯。記事の前年の2012年は親会社がTBSからDeNAになった初年度。1試合の平均観客数が約16000人だから、観客の10%がみかん氷を食べていた計算になる。すごい。あんなに乱暴な食べ物を売る方も売る方だが、食べる方も食べる方だ。

 しかし、日差しの厳しいデーゲーム、氷をわっせわっせと掘削しながら食べていると、冷たさと甘さをプリミティブに感じ、爽快な気持ちになるのは確かだ。なんだか目の前のグラウンドで、勝つときも負けるときも豪快、目を疑うファインプレーと目を覆うミスが同じ選手から豪快に飛び出す、我がベイスターズに似ている気がした。

 そして逆さみかん氷だ。たまたまSNSで見かけた、みかんが氷の下に埋まっているその姿は、なかなかに衝撃的だった。注文するときにかき氷の下に先にみかんを入れてもらうらしい。SNSでは本家同様かそれ以上にワイルド極まりない氷の塊の写真とともに「みかんが落ちない」「みかんがずっと冷たく乾燥しない」などといったコメントが並んでいる。なにそれ知らない。みかんを落とさずノーミスで食べきったことがない身からすると、これは頼んでみるしかない。ある日のナイトゲーム、新メニューの案内を横目に意を決してカウンターの店員さんに話しかける。

「みかん氷は大事な名物だから…」

「あのう、みかん氷、の、みかん、を下にしてもらう、ことって、できますか?」

 逆さみかん氷が公式なものか自信がなかったので、おっかなびっくりである。店員さんが笑顔で返事をする。

「あ、みかんを下にするやつですね。できますよ!」

 おお。じゃ、それひとつください!

「氷ひとつー、みかん下でー」

 ホッとしたその直後、店内から別の店員さんの声がした。