人はよく物語の登場人物たちの10年後を想像する。

 漫画『スラムダンク』の桜木花道や流川楓は彼らが高校1年生時点で連載は終わったが、いったいその後どんなバスケットボール選手になったのだろうか? 昨夜、久々にデヴィッド・フィンチャー監督の映画『ゴーン・ガール』を見返したが、ラストシーンで仮面夫婦を演じ続ける人生を選んだ二人にはどんな未来が待っているのだろう? 社会人になりたての頃、合コンの帰り道に新卒のおネエちゃんがふと「30歳になってる自分がまったく想像できない」と笑っていたが、彼女も今頃どこかで30代の日常を生きているはずだ。

 ひとつの物語は終わっても、駅のホームで別れても、彼ら彼女らの人生は続いていく。でも、我々はほとんど続きのストーリーを見ることはできない。時間の経過とともに増える未完の物語の数々。だが、世の中にはあらゆる登場人物たちの“その後の人生”を追えるエンターテインメントがある。それが、プロ野球だ。

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巨人暗黒期に1軍デビューした22歳の亀井

 2018年版巨人打線は坂本勇人や小林誠司の20代後半の主力がチームを引っ張り、ゲレーロとマギーの助っ人コンビがクリーンナップを組み、売り出し中の若い吉川尚輝や岡本和真も結果を残し食らいついている。そんなスタメンの中で、ひときわ異彩を放つのが背番号9の存在だ。亀井善行、35歳。プロ14年目の今季は開幕2軍スタートも、4月5日に昇格するとここまで「打率.333 2本塁打 14打点 OPS.900」という好成績を残している。得点圏打率.476の勝負強さも健在である。

 振り返れば、亀井の1軍デビュー戦は2005年7月9日の広島戦。当時は背番号25をつけ、7番ライトでスタメン出場したわけだが、巨人はタフィ・ローズや小久保裕紀、さらに清原和博といった豪華メンツがずらりとスターティングメンバーに顔を揃え、なんと自軍先発投手は懐かしのマレンだった。横浜でもプレーしたあのスコット・マレン、って大型連休中にマレンのことを調べている俺の人生は大丈夫だろうか…と思わず心配してしまう堀内監督最終年の暗黒期。もはやパッと見、どこの球団のスタメンか分からないと揶揄されていた時代に22歳の亀井はプロデビューしたわけだ。ちなみに翌06年6月29日の横浜戦でルーキーピッチャーからプロ初本塁打を放ったが、その相手投手とは当時18歳の山口俊である。あれから長い時間が過ぎ、彼らは現在チームメイトとしてともに戦っている。

4月29日のヤクルト戦、7回に勝ち越しの2点二塁打を放った亀井善行

栄光と挫折の背番号9の野球人生

 そして、多くのファンが熱狂した2009年の亀井の活躍は衝撃的だった。春に第2回WBCの日本代表に選出され、あのイチローからもそのポテンシャルの高さを絶賛された男は、原巨人の5番打者として定着。「1番坂本勇人 2番松本哲也 3番小笠原道大 4番ラミレス 5番亀井」と続く打線は、今思えば高卒ドラ1、育成出身、FA補強、助っ人選手、大卒生え抜き野手が並ぶ絶妙なバランスで成り立っていた。この年から背番号9を背負う亀井はサヨナラ弾3発を含む25本塁打を記録、守っては外野手でゴールデングラブ賞を獲得してチームは日本一に。これが映画や漫画なら、ハッピーエンドのラストシーン間違いなし。けど、プロ野球のストーリーは毎年終わり、同時に毎年始まるNPB大河ドラマだ。

 翌年から度重なる故障に泣かされ、内外野できる便利屋で起用され、心機一転2013年には登録名を「義行」から「善行」へと変更。不思議なことに、プロ野球選手は成功だけじゃなく失敗も時間が経てばファンと共有した物語の一部になる。規定打席到達は09年の一度のみと不動のレギュラーとはいかなかったが、昨季は代打で38打数13安打の打率.342、両リーグ最多の17打点と由伸監督の切り札として存在感を発揮。デビューから13年という長い月日が経過し、気が付けば巨人の外野手最年長選手である。