巨人の絶対エース菅野がまさかの開幕2連敗を喫した。7回5失点だった開幕戦の阪神戦に続き、6日のヤクルト戦も6回5失点で2敗目。だが、「今年の菅野はダメかもしれない」と感じているG党はきっと少数派だろう。菅野はたったの2つの黒星でファンの信頼が揺らぐようなレベルのピッチャーではないからだ。そしてそんなファン以上に菅野を高く評価している男たちがいる。この数字を見てほしい。
菅野智之 1493
大谷翔平 742
金子千尋 384
田中将大 362
前田健太 322
これは過去5年間にオールスターの「選手間投票」投手部門で獲得した票の総数である。菅野は同期入団の大谷に2倍以上の大差をつけてトップに立っている。公表されていない4位以下の票数はカウントしていないし、マー君やマエケンは途中でMLBに移籍しているのでもちろんフェアな比較ではない。だが、ルーキーイヤーの2013年から2位、1位、2位、1位、1位と5年連続でリーグトップ3に入っているのは12球団で菅野ただ一人。NPBの選手間では菅野が断トツの支持を受けていることは間違いないと言っていいだろう。
音楽の世界には、ミュージシャンズ・ミュージシャンという言葉がある。一般的な人気はそれほどではなくても、高い演奏技術やセンスを持ち、同業者であるプロの間でリスペクトされているプレーヤーを指す。菅野もまた、飛び抜けた実力を持っていながら、一般層の間で、それに見合った人気を獲得しているというわけではない。野球場以外、例えば渋谷の街で大谷と菅野の知名度を比べてみたら結構な大差がついてしまうはずである。生まれもった華があり、メジャーでもデビューからホームランを連発してしまう大谷は万人から愛されるピープルズチャンピオン。だとするなら、プレーヤーの間で圧倒的な評価を受ける菅野はミュージシャンズ・ミュージシャンではないかと思うのだ。
2軍で“干されていた”捕手と観た巨人戦中継
5年前のことだ。僕は2軍練習を終えたある球団のキャッチャーと合流し、恵比寿で馬刺しを食べていた。店内には大型のテレビがあり、そこでは巨人ー西武の交流戦を放映していた。所属チームではないとはいえ、プロ野球選手がナイターをテレビで観戦する心境は複雑なはずだ。サラリーマンで言えば、大事な全体ミーティングに出なくていいと言われ、がらんとしたオフィスで電話番を命じられたような焦燥感。新聞記者で言えば、自分の記事が一文字も載っていない自社の新聞を読んでいるような蚊帳の外感……。
彼は新人の年から1軍出場を果たした期待の若手だったが、徐々に出番が減り、この年は2軍でも出場機会を失っていた。彼自身は決してそうは言わなかったが、「干されている」と言ってもいい状況だった。そういうときに野球の話ばかりしても仕方がないので、僕らはとりとめのない会話をしながらお酒を飲んでいた。
テレビの中ではルーキー菅野がピンチを迎えていた。1−1で迎えた9回2死一、二塁。打者は移籍前の片岡治大。最後の力を振り絞る菅野と、プロの意地で粘る片岡。対決は白熱していき、僕らも自然と野球中継に集中していった。フルカウントからの7球目。片岡は内角のワンシームをやっとのことで一塁線に転がす。一ゴロに打ち取ったかに見えたが、わずかにファウル。すると、捕手の血が騒いだのか、彼が急に口を開いた。