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精神疾患も国民経済も正しい治療法はすぐには見つからない。「精神医学と経済政策が似ている」ワケ

精神疾患も国民経済も正しい治療法はすぐには見つからない。「精神医学と経済政策が似ている」ワケ

内田舞+浜田宏一『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書)より

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会, 読書, 医療, ヘルス

note

新型コロナがもたらした世界経済への影響

浜田 ところが、2020年になると、世界は新型コロナに襲われました。人に会ったり、接触したりすることを避けざるを得なくなりました。そのため大きな生産減、雇用減が各国で起こったわけです。それを救うために、バイデン大統領は、これを大規模の財政政策で解消しようとしました。それは正しかったと思います。ただその結果、アメリカは10パーセントに届くような消費者物価のインフレに見舞われた。そこでアメリカの連邦銀行は、金融を引き締め、金利を上げざるを得なくなった。そして今度はリーマン危機の時と逆のようなことが起きました。日本が金利を上げることができなかったために、円安が生じてしまったのです。舞さんのお母様のエピソードの背景にはこのようなことがあるのです。

 ただ植田日銀総裁は、金融を十分に緩和しなかったために雇用が伸びなかった歴史を重視しているのでしょう。円安を止めるのに必要な金融引き締めへの方向転換にはとても慎重に舵をとっています。

内田 なるほど、パンデミックを引き金に、世界経済と連動して歴史的に見ても稀な事態が起きているわけですね。世界的にコロナのような状況が起こることは誰も予想できなかったものの、その場その場で起きたことに反応していかなければならないということですよね。どんな介入においてもリスクとベネフィットがあり、ベネフィットがある中でもリスクが見え隠れした次点で、そのリスクに対応する準備をしなければならない。その際、完全な治療法がなくても、危機に陥らないための対処療法や時間稼ぎも大切という点も納得です。

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  ただ、パンデミックが終わっても中東やウクライナでの戦争が起こり、またアメリカの利下げも起こりそうにない。素人の感想で申し訳ないのですが、こういった世界的状況のなかで海外の動きによる円安の解消が期待できないのであれば、なおさら日本の内から変わるべき時期なのではないかと思いました。もちろん金融引き締めという直接的な対応も必要であるものの、同時に日本経済そのものが成長して円の価値を上げる必要もあると。

 日本の経済成長を妨げる要因として少子化や多様性の欠如などが頻繁にあげられますが、そう考えると、日本の古典的な労働観やジェンダーバイアス、さらに家庭を持ちながら仕事をすることのハードルの高さといった現状の是正こそが、長期的に経済効果をもたらすのかもしれないと考えてしまいます。今こそ多くの人が健康や家庭を犠牲にせずに自分の能力が発揮できるような社会に近づいてほしいですね。

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