アベノミクスのブレーンとして知られる経済学者の浜田宏一氏。その活躍の裏側で長らく躁うつ病に苦しんできた。さらに回復の途上、実の息子を自死で亡くす。人生とは何か? ともにアメリカで活躍するハーバード大学医学部准教授で小児精神科医の内田舞氏を聞き手に、その波乱に満ちた半生を語る。7月19日に発売になった『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書)から、精神医学と経済学の相似性について語られた箇所から一部抜粋してお届けします。(全4回の3回目/最初から読む)
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大うつ病と大恐慌――精神医学と経済学は似ている
浜田 イェールの初診の医師から「大うつ病(major depression)ですね」と笑顔なしに診断を伝えられたとき、僕は「経済のほうにも大恐慌(great depression)というのがあります」と答えたのですが、経済学と精神医学にはいろんな意味で似たことがあるように思います。
内田 major depressionとgreat depression! 言葉の面白さに吹き出してしまいました。その笑わない先生もさすがにここは笑ってほしかったですね(笑)。
浜田 僕が大学時代に、東大管弦楽団の指揮者で東邦大の薬理学教授であり、宮城道雄賞の受賞者でもあった伊藤隆太先生に作曲を習っていました。その先生が言うには、医学と経済学は「患者(国民経済)の状態について本当はよくわからない時が多いのが似ているのではないか」と。しかし、「この症状がたいしたことはないか、深刻になりそうかは大体の勘で判断はつく」「どの専門医につなげばいいか」ということはわかる、けれども、「この病はAで」とか「Bをすれば治る」などとは必ずしもわかるわけではないというわけです。
とりわけ精神医学の場合はそうだと言えそうですね。いままで体験しなかった形のコロナ禍などを体験する場合には、教科書にも書いていないわけですので、経済政策も完全にこの政策は効果があるとは分からない。そこで試行錯誤で政策も対応していくわけです。経済学でもわからないことだらけなのです。だから研究が楽しみともいえます。