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久々に見る“伝説級勝負”

 フィールドに目を移すと、そこには平成の世となっては久々となる名勝負数え歌にセレクトしてもよい戦いが待ち受けていた。筒香(嘉智)との同窓対決だ。互いに横浜高出身で年の差11歳。しかし勝負となれば先輩後輩も関係ない。筒香のフルスイングに、松坂も感化され思いっきり腕を振る。3度の対戦で投じた全13球はすべて魂のこもった真剣勝負。一球たりとも無駄な球はなかった。

 古くは長嶋vs村山、王vs江夏から、野茂vs清原、そして松坂vsイチローと時代時代に試合の勝敗とは別に投手打者一対一による名物対決があった。イチローと対峙していた頃の松坂は高校出立ての胸を借りる立場であったが、時は流れ、今は逆。迎え撃つ側としてマウンドに立つ。先輩であり小さい頃から憧れの存在であった松坂からなんとしてでもホームランを打ちたい! 筒香の思いは単純明快だ。その気持ちに応えてか松坂もメラメラ燃えて三振を奪いにいく。二人ともゲーム後に「力が入った」と、他の対戦では味わえない“勝負の楽しさ”を口にした。久しく燃えるモノを感じなかった日本球界に、新たなる伝説が生まれたことは確実である。

筒香の横浜高校の11個先輩にあたる松坂 ©文藝春秋

モノよりプライスレスの思い出が一番

 観客の反応。これが野球の醍醐味かと、身体がそして、口が勝手に動いてしまうのであろう。松坂が5回に迎えたピンチな場面でプレートを外し一呼吸つく度に割れんばかりの声援がドーム内に響き渡った。ベイスターズファンのトランペット、そして応援がかき消されるくらいの音量で。目を瞑れば、ここはアメリカ?松坂がいたボストン・フェンウェイパークか? と思えるほど、ファン一人一人から魂のこもった思いが松坂に送られていた。試合後「あの声援にはとても元気をもらえた」と松坂も感謝していたほどだ。

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 ゲーム終了後、松坂がお立ち台でインタビューを受けている際、誰一人席を立つ人はいなかった。ベイスターズファンも松坂の喜ぶ姿に賞賛の拍手を送っていた。そしてドームを後にする時のファンそれぞれの顔が皆、幸せそうだったことが印象に残っている。それもこれも松坂だからこそ成せる業といったところか。一人の野球選手が満員の観客をトリコにしてしまう。それがスーパースター。松坂の魅力は色褪せるどころか、この復活を機にますます深みを増していきそうに思えた。

 ここ数年、観客動員に頭を悩ませていたドラゴンズ球団はどうすればファンは来場してくれるのか試行錯誤を繰り返していた。しかしこの日で確信が持てたはずだ。観たい選手、感動を与えるゲームをすればファンはやって来てくれるものだと。ファンサービスはやっぱり「モノより思い出」。まさにこれこそ“松坂効果”。ファンも球団も忘れかけていた野球の素晴らしさをこの日彼から教えてもらったに違いない。

 これから気候も良くなり、球数制限も徐々に緩まることだろう。野球小僧・松坂大輔の活躍の場も増えていくはずだ。先日のジャイアンツ戦で右ふくらはぎの張りを訴え、緊急降板したものの、次の登板には影響ないとのこと。これからも決して無理をせず、多くの野球ファンに夢を与え続けて欲しい。そしてちびっ子たちの記憶に彼の凄さを残してもらいたい。次の次の世代へ彼らが松坂を生で観たことを自慢してもらうためにも。

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