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松坂大輔の今季初勝利 ナゴヤドームに「野球の原風景」を見た

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/19

【大山くまおからの推薦文】
 昨年の中日ドラゴンズ担当ライター、竹内茂喜さんが復活! 松坂大輔の日本球界では12年ぶりとなる勝利を超満員のナゴヤドームで見届けた竹内さんによる、野球愛にあふれた文章をお届けします。世代を超える松坂伝説、松坂vs筒香の名勝負……ドラゴンズファンのみならず、全野球ファン号泣必至!

◆ ◆ ◆

 不朽の名作である野球映画『フィールド・オブ・ドリームス』にこんなセリフがある。

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「ここは天国かい?」
「いや、アイオワさ」
「天国のようだ」
「天国は存在する?」
「ああ……夢の叶う場所さ」
「じゃあ、やっぱりここは天国かもしれないな」

 4月30日、ナゴヤドームの106ビジョンには今季初勝利を挙げ、満面の笑みでヒーローインタビューを受けていた松坂大輔が映し出されていた。敵味方関係なく3万6606人すべてが祝福の声援、拍手を送っていた。その時、三塁側内野席にいた私は頭の中でこのセリフを思い出し、久しぶりに体感した素晴らしき“野球の原風景”に心潤していた。

 野球ファンでなくても誰もが知っている平成の怪物。今年1月にドラゴンズへテスト入団を果たし、再起をめざしていた。当初、彼の入団についてドラゴンズファンの多くは半信半疑であったと思う。森監督、デニー友利国際渉外担当の縁故入団では? との辛辣なる声もあがっていたほど。しかし自主トレ、春季キャンプと彼の動き、投げる姿を見て、評価はうなぎのぼり! キャンプ地の北谷は例年にないファンの入りとなった。例年閑散としていたメイン球場のスタンドも一目松坂を見ようと連日大入りを記録。急遽発売されたグッズも即完売するなど、キャンプを終える時点でファンの心は皆、松坂はチームの大切な戦力、そしてドラゴンズのユニホームを着ての復活を願う気持ちはおおいに膨らんでいった。

 そして開幕。ここまで2度先発として地元ナゴヤドームのマウンドに立ち、いずれも好投を演じた松坂。両日とも平日にも関わらずスタンドに詰め掛けた大勢のファンに復活は近い! と感じさせたものだった。そして運命の3戦目、対DeNA戦を迎えたのだ。

4月30日のDeNA戦で今季初勝利を挙げた松坂大輔 ©文藝春秋

時代の継承、歴史の伝承

 この日のナゴヤドームはゴールデンウィークということもあり、ファミリーシリーズと題し、入場する小学生以下に特製昇竜ユニホームを配布。スタンドは早くから家族連れであふれていた。ただ多くのファンの関心はもちろん松坂。待望の初勝利を挙げることができるかに注目は集まっていた。もちろん私もその中の一人。試合前から興奮を抑えることができず開門の1時間前にはすでにナゴヤドームへ到着していたほどだ。

 この一戦で私自身、数々の感動を得ていた。いや頂いたと言ってもよいだろう。それも試合開始から球場を後にするまで何物にも代え難い多くの素晴らしい思い出を頭に詰め込んだ。それが冒頭に戻っての、“野球の原風景”につながっていく。

 スタンドで応援している時、トイレで順番を待っている時、そしてドームを後にする時、そこかしこから聞こえてきた子供から親への質問が今でも忘れられない。

「松坂ってすごい人なの?」
「松坂ってメジャーリーグで投げていたんだ!」
「松坂と大谷とどっちが強いの?」etc.

 微笑ましい質問ばかり。親もここぞとばかり威厳を示すがごとく、西武時代、ここナゴヤドームで行われた日本シリーズにおいてドラゴンズを苦しめた話やら、メジャーリーグで活躍した話、WBCで世界一になった立役者であったこと等を事細かに、そしてうれしそうに説明していた姿が見ていて頼もしく感じ、またなんとも清々しい気分にさせてくれた。ここのところ球場を訪れてもほとんど聞こえてこなかった時代の継承、歴史の伝承。昔はこちらから聞かなくても評論家風情で講釈をたれる年配のファンが多かった記憶がある。懐かしい思い出であり、最近では見かけない光景にみえた。

 その世代を超えたファンの交流が途絶えたせいなのか、実は数年前、ドラゴンズ歴代きっての名二塁手であった高木守道氏に若いファンから飛んだ耐え難い野次に心を痛めたことがあった。相手に対し尊敬する気持ちがあれば口にしない汚い言葉。しかしそれは同時に一ドラゴンズファンとして若い世代へドラゴンズの歴史を伝えていない我々年配者の責任とも感じていた。父親や素性も知らない酔狂なおじさんから教わったドラゴンズの歴史を次世代へつなぐ。未来のドラゴンズファンのためにも途絶えてはいけない球団史の紡ぎである。

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