夜のランニング中にふと感じた違和感の正体
吉田さんは運動がお好きで、ゴルフやランニングなど、ご主人とともによくスポーツを楽しまれます。入浴前にご夫婦揃って、軽くランニングに行かれるのが日課だそうです。
ご夫婦が暮らしておられるのは、市内ではあるものの中心街から少し離れた閑静な住宅街です。夜になると人通りも少なくなり、ランニングをするには丁度良い場所かもしれません。
走られる時間帯やコースはたいてい決まっているそうで、その日もいつものようにご夫婦でランニングに出掛けられました。
その日は夏の夜にしては涼しく、ランニングをするにも気持ち良かったそうです。吹き抜ける風が少し汗ばんだ肌を冷やしてくれて、爽快感を覚えながら、お二人で並んで走っておられました。
緩やかなカーブを抜けて徐々にペースを落とし、直進コースに入られました。ここから自宅までは、数百メートル続く真っ直ぐな道です。脇には小さな川が流れており、その川の流れる音もまた、夏の暑さを忘れさせてくれたそうです。ご夫婦は、自宅に着くのが勿体ないくらいの心地良さを感じ、ゆっくりと歩かれたそうです。
真っ直ぐな道の前方には街灯が一定の距離を保って立てられており、歩道を照らしています。その明かりの中に、犬を連れた初老の男性の姿があったそうです。男性が連れておられる犬は、クンクンと地面の匂いを嗅ぎながら、時折主人の持つリードに逆らって、道を戻ったり進んだりしていたそうです。ですので、ご夫婦の歩くペースよりもゆっくりと進んでおられました。
やがてご夫婦は、男性のすぐ後ろまで追い付き、抜こうかどうしようか迷っておられました。するとその男性が「お先にどうぞ」と言って、犬を引っ張って、避けてくださったそうです。
「ありがとうございます」そう言って、ご夫婦は男性を追い越す形で、前に行かれました。
しかしそのまま歩いて行ったご夫婦は、いつもの見慣れた風景に違和感を覚えられました。なぜだろうと思って、しばらくしてはたと気付きました。道の先の街灯が一つ消えていたのです。