業者のあいだで飛び交った、白骨死体との関係への見立て

 事情を知る業者のあいだでは、ウエストはむしろこの一等地の再開発をめぐって借地権で儲けようとして建物を買っただけ、という見方が強いようだ。

「西岡といっしょに地上げしている不動産業者からは、彼が建物を買うために使ったのは2億から3億だと聞きました。高橋礼子さんの隣のビルだけでなく、この一帯の小さなビルや家屋を五軒も買い取ったそうです」

イメージ ©アフロ

 この土地に関与した多くの同業者と折衝してきたという初村は、こう言葉を足した。

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「仮に3億円突っ込んだとしても、開発がうまく動き出せば、その2~3倍のリターンになると思います。そういう目論見でこの土地に近づいて来た地上げ業者は、数限りなくいます。そのなかには、地面師連中と組んでいる輩もいますが、事件には手を染めていない第三者もいる。あるいは限りなくグレーの業者が、第三者だと言い張るためのアリバイをつくっている」

 マッカーサー道路に面したこの一角に関しては、多くの不動産業者が周囲のビルの所有者への説得に走り回ってきた。実際、ウエスト社のように開発地域で上物の建物だけを買い取ったケースもあれば、底地を買い取る約束を取り付けてその権利を他に売ろうとしていたところもある。

地主の彼女は「路上でワンカップ酒」「銀行窓口で警察沙汰」の放蕩ぶり

 そうして一帯の土地が地上げされていった。そのなかで彼女の所有地だけが、膠着状態に陥っていたのである。初村がつぶやいた。

「地上げ業者にとってはもう一歩のところ。だけど、彼女の放蕩ぶりはエスカレートするばかりでした。ホテル暮らしの手持ち資金が尽きてしまったのか、ワンカップ酒を買って路上で飲んでいたり、近所の知り合いに金を借りようとしたり……。銀行窓口に居座って110番されたことまであったといいます」

 かつての素封家(そほうか)の娘は、ホームレスのようになっていく。しまいにアルコール依存症のような状態になり、16年の3月12日には、愛宕署に保護される始末だった。さすがに警察に保護された彼女は、いったん家に戻ったようだ。だが、それから間もなく、地元新橋の住人も姿を見かけなくなる。心配した隣人が愛宕署に捜索願を出した。実は地主不在のその裏で、事態が動いていたのである。