取引総額70億円で63億円を払い込み、うち55億5000万円が被害――。東京・西五反田の「海喜館」を舞台にして起きた積水ハウス事件は、昨今横行してきた地面師詐欺の中でも、群を抜いてスケールが大きい。それだけに、警視庁捜査二課も熱が入ったに違いない。
これまで地下に潜って蠢いてきた詐欺師たち
10月16日、地主のなりすまし役である羽毛田正美(63)らの逮捕を皮切りに、このひと月あまり五月雨式に一味を摘発してきた。11月14日には網走刑務所服役中の内田マイク(65)を女満別空港経由で東京拘置所に移送して20日に逮捕、22日には行方をくらましていた土井淑雄(63)を六本木の愛人宅マンション前で発見し、身柄を押さえた。これで警視庁捜査二課が追う事件の首謀者は、フィリピンに逃亡中のカミンスカス(旧姓・小山)操(58)を残すのみとなった。
ひと月以上続いた15人の逮捕劇により、事件が報じられない日がないほどだ。おかげで、これまで地下に潜って蠢いてきた詐欺師たちの存在が知られるところとなり、聞き慣れなかった「地面師」という言葉が、すっかり一般に浸透してきた感がある。
調べていくと、事件の多さに驚いた
もっとも、地主になりすまして不動産を騙し取る地面師詐欺は、今に始まった犯罪ではない。古くは終戦間もないカオスで跋扈し、1990年前後の不動産バブル期や1990年代後半のマンション開発ブームにも暗躍してきた。そんな地面師事件が、昨今の都心の不動産高騰により、再燃しているのである。
取材の端緒は、奇しくも旧知のマンションデベロッパーが2015年夏に詐欺被害に遭い、相談されたからだった。その事件の詳細は先に刊行した『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』に譲るが、調べていくと、事件の多さに驚いた。これより少し前にホテルチェーン「アパグループ」が12億6000万円も騙し取られている。アパ事件が起きたのは、今から5年以上も前の2013年8月である。
だが、アパは警視庁に被害相談をしていたものの、知能犯を担当する捜査二課の動きが鈍かった。ひょっとすると、事件は迷宮入りするのではないか、という不安も頭をよぎったものだ。同じように知人のマンションデベロッパーの件でも、騙した相手を刑事告訴していたが、いっこうに埒が明かなかった。
地面師は東京だけでなく、関西にもグループがいくつかある。以前の地面師は「新宿グループ」や「池袋グループ」、「総武線グループ」といった塩梅に縄張りを主張し、行動範囲が狭かったが、最近の地面師はどこにでも出没する。東京と関西の地面師グループが連携しているケースまである。