毎週のように地面師事件の被害届が
地面師事件は日常茶飯に起きている。とりわけ東京でこの数年、警視庁管内の各所轄の警察署にもたらされてきた被害相談の総数は、50件ないし100件といわれる。毎日とは言わないまでも、ざっと週に一度はどこかの警察署に被害が届けられているという。
地面師集団は、警視庁が警鐘を鳴らし続けている特殊詐欺、振り込め詐欺に似ている。通称、オレオレ詐欺では、電話役の「かけ子」、金を引き出す「だし子」がいて、背後に暴力団の影がちらつく。地面師詐欺でも支度金を裏社会が担っているフシがある。首謀者を中心に、騙す不動産業者を探してくる「仲介・ブローカー役」や「なりすまし役」、なりすまし役をスカウトする「手配師」、パスポートや印鑑証明など関係書類を偽造する「道具屋」、騙した金を振り込ませる口座を用意する「銀行屋」にいたるまで、役割分担がなされている。
もっとも、オレオレ詐欺とは決定的に異なる点もある。それが被害額だ。数十万円から数百万円を騙し取るオレオレ詐欺に対し、地面師たちの狙う不動産の価値は最低でも数千万円から数億円。10億円を超える事件も珍しくない。表現は正しくないが、詐欺師にとって「効率のいい仕事」なのである。
事件化するのは氷山の一角だ
しかし、横行している地面師詐欺は、その数の割にクローズアップされてこなかった。理由は、当局が摘発できていないからにほかならない。騙された不動産業者が所轄の警察署に被害届や告訴状を持って行っても、受け付けてくれない。あるいは被害届を受理しても、捜査が進まない。取材すると、そんなケースは山ほどあり、むしろ事件化するのは氷山の一角だ。
なぜ、そうなるか、といえば、一つには捜査体制の問題もある。地面師事件のような複雑な詐欺事件は、不動産取引や関係法令に通じているベテラン刑事が捜査を担う。捜査を進めるためには、犯行グループのややこしい指示系統や役割分担の構造を解明しなければならない。仮に偽造書類を使ったなりすまし役を捕まえられても、首謀者の指示や犯意を立証できなければ、せいぜい有印私文書や有印公文書の偽造程度の犯罪にしか問えない。