手練れの刑事の人員が足りない
所轄署では知能犯に対応できる捜査員が少なく、地面師事件では、必然的に本庁捜査二課の主導とならざるを得ない。が、本庁には知能犯のベテラン捜査員がいるものの、その数も限られているので、あまりに多い事件に対応できない。平たくいえば、手練れの刑事の人員が足りないのである。
事件捜査では、世に与えるインパクトの大きな事件を優先する。そんな傾向が警察にあるのも否めない。積水ハウスが55億5000万円も騙し取られた大事件に捜査二課が本腰で乗り出したのは、さすがに放置できなかったからでもある。ちなみに被害額12億6000万円のアパ事件でさえ、発生から4年後の昨年11月になってようやく犯人グループを摘発した。が、取り逃がした部分もある。
騙されるのは業者だけではない
そうして事件化が遅れるあいだ、地面師たちは次の事件に手を染める。たとえばアパ事件と積水ハウス事件では、容疑者がずいぶん重なっている。一人は永田浩資(54)で、積水ハウス事件では首謀者の内田マイクとの連絡役だとされた。そしてもう一人が、二つの事件でなりすまし役を手配した秋葉紘子(74)である。秋葉はアパ事件で逮捕されたあと、不起訴になり、積水ハウス事件に加わった。仮にもっと早く塀の中に入れておけば、事件は未然に防げたかもしれない。
表向き地面師事件で直接的な被害者となっているのは、不動産関係者が多い。だが、騙されるのは業者だけではない。地主が知らぬ間に売り払われ、他に転売されれば、その土地は取り戻すことができなくなる危険性もある。あるいは不動産業者から正規に買ったと信じて疑わない新築物件が、実は地面師事件の舞台だったケースもある。気が付くと、地面師詐欺の被害者になっている、なんてことがあるかも。
(文中敬称略)