祖父が遺したのは、築75年のボロい一戸建てだった……。作家の高殿円さんは、相続した父と叔父に代わって“負動産”を売りに出すことに。しかし「売れない」という大きな問題にぶち当たってしまう。

 ここでは、そんな高殿さんの実家じまいの一部始終を収めた『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)から一部を抜粋。売れないならと賃貸に出すことを視野に入れ、祖父の家を片づけることにした高殿さんだったが……。(全4回の4回目/最初から読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

人力作戦決行…「やるんだ、破壊するんだあの昭和を」

 一番のパワーは人力だ。私は完璧な計画を立てた。まず一日でこの家のゴミを片付ける。私、父、母、家人、息子で家中に散らかるゴミ類をなんとか片してしまうのだ。まずはそこからだ。 

 アマゾンで購入したシゲマツ(重松製作所) 使い捨て式N95マスクはすぐに届いた。防塵マスクってすごい。朝九時。水も出ない、トイレもない、もちろん電気も暖房もない祖父の家の片付けがはじまった。なにせ電気がないので、日が暮れる前に作業を終えねばならない。しかし、人間というものはいったん時間があいてしまうと、もういっか、という気分になってしまう生き物である。

 すべての問題解決の鍵は人間のメンタルだ。つまり今回の片付けの問題は継続性にある。片付き、変化を視認できれば人はなんとかし続けようとするもの。なんとしてもここで片付けに進歩を見出し、実際、片付けねばならない。

写真はイメージ ©AFLO

地獄のルーティン、エンドレス……プラケース!

 我々は猛烈に働いた。ありとあらゆるものをゴミ袋に分別しはじめた。そして悟った。片付けられない人間を増やした悪魔は百均である、ということを。百均のプラケースは悪魔のボックスだ。あそこに入れればなんとなく片付いた気分になってしまう。しかし元来片付けられない人間は、そのプラケースになにを片付けたか記憶を失う。そしてそのプラケースごと見失う。そして「あれ、間違って捨てちゃったかもしれない」と勘違いする。

 負のルーティンはこれでは終わらない。なくなってしまったことに焦った片付けられない人間は、まず補充しようとする。そしてここにも100均の罠が潜んでいる。すなわち、「100円だからいっか」、「100均だからいっか」という手軽さによって、またプラケースとプラケースに保管するべき爪切りだの耳かきだのなんだのを購入するのだ。そして買ったことに満足して、プラケースはまた家の中に1セット増え、そして忘れ去られる。片付けられない人間は、探し出すことも出来ない。よってまた、「あれ、間違って捨てちゃったかも」と誤認し、100均に補充にでかける。以下地獄のルーティン、エンドレス……。

 いったいいくつでてきただろうか!!!!このプラケース!!!気が狂うぞ、エンドレスプラケース!!絶対許さない。

「片付けられない人間はプラケースを買うな‼」

 やっつけてもやっつけても出てくる地獄のプラケース、100均で買ったであろう品々、洗剤、洗剤、また洗剤。はい、魔界ならぬ腐界との戦い開幕戦はまさに100均プラケース戦。プラケースだけではない。ちぎっては投げ、ちぎっては投げしてもまだ出てくるタッパー、タッパー、またタッパー。

 死ぬのか⁉ 

 いやもう死んどる‼