ただでやる。無料で出すからだれか持っていってくれぇ‼
初日はもう、ちぎって投げていた記憶しかない。 うちの巨大なるノアに詰んでも詰んでも終わらないゴミ。ゴミ、ゴミの山。すべての引き出しを開け、すべての棚からものを引きずり出し、プラスチック100均ゴミを処分するのに丸一日かかるとは思わなかった。それでも一日悪戦苦闘した成果もあって、この家にあるものの大部分は把握できた。何があるのかわかれば次の手は打てる。
すなわち、
「ガレージセールだ‼」
私の目にはゴミに映っても、世の中にはいろんな価値観を持った人間がいる。そして思い出せ若かったころを。結婚当初、我々だって、どこのだれだかわからない人から譲り受けたソファやダイニングテーブルをありがたく貰って使っていたのではなかったか。
私のスマホが火を噴くときがきた。
「見せてやんよ、令和の力を」
古い古い水屋箪笥から母が引きずり出してきた食器は、なんといま風でいう昭和レトロ。なんと再ブームが来ているレトロかわいいというやつだった。いいかんじに写真を撮りまくった。家具という家具も撮影した。なんと私の目にはたいしてどうとも映らなかった藤の家具がダイニングセットとシェルフ、チェストとそろっており、(おばあちゃんの家とか銭湯とかの脱衣所にある感じのあれである)。ヤフオクで検索したらまあまあな値段で販売されていたのだ。
いや、発送をしている暇はない。ただでやる。無料で出すからだれか持っていってくれぇ‼
そうして、奇跡は起きた。
「ジモティー」に投稿した。
“祖父の家の家具、食器、服、全部無料であげます。興味のある方はご連絡ください”
正直、反応があるかは眉唾だった。しかしなにごともダメ元、40万払うくらいならばなんだってやってみる。やってみるは魔法の合い言葉。父がノアでゴミを焼却所まで何往復もして運び、衣装ケースを二階から下ろし、我が家の労働力様息子はいちばんよく働いた。偉い。好き。愛してる。さすが我が息子よ。息子には餃子の王将で好きなものを好きなだけ食べさせた。もうお母ちゃん、なんだっておごっちゃる。さあもう一働きして、若さであのゴミの山をなんとかするんだ。
そうして、奇跡は起きた。
『興味があります。場所はどこですか?』
王将から戻ってきたあと、私のスマホには、30件を越える問い合わせが届いていた。