作家の高殿円さんの祖父が遺したのは、築75年のボロい一戸建てだった……。祖父の死後、その家に住んでいた叔父も他界すると、高殿円さんは相続した父ともう一人の叔父に代わって“負動産”を売りに出すことに。しかし「売れない」という大きな問題にぶち当たってしまう。
ここでは、高殿さんの実家じまいの一部始終を収めた『私の実家が売れません!』(エクスナレッジ)から一部を抜粋。さっそく買い手が現れたかと思いきや、仲介業者から「お取引はできなくなりました」と連絡が……告げられた衝撃の事実とは?(全4回の2回目/続きを読む)
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隣家の土地交換が招いた悲劇
いま私たちが売ろうとしている祖父の家は、祖父が結婚し商売を始めたころに建てた築75年以上の古いものだ。登記簿謄本には、祖父の前の持ち主や、祖父が死んで叔父と父が相続したことをはじめ、権利の移転などの情報が記録されている。
私たちは当然なめるように目を通し、「……いや、べつにヘンなところないですけど」
「いえ、松本さん(仮)の登記簿は問題ないのです。問題なのはお隣の家です」
「隣……」
たしかお隣は亡くなった祖母の元実家で、現在父のいとこ夫婦(A家)が住んでいるはずである。親戚づきあいはまったくないが。
「じつは、お隣の家が、松本さんのご自宅の前面道路と、所有する土地を市と交換したのです」
衝撃の事実。っていうか、初耳。
「え、え、どういうこと?? 交換??」
「どうも道路の拡張工事をしたかった市が、お隣のA家の道路側の土地を譲ってもらうかわりに、松本さんの家の前の道路を交換したみたいです。ですので、厳密にいうと松本さんの家の前の道路は道路ではなく、Aさんの私有地です」
「私有地」
「公道に接してる部分はありません」
「そんなことある⁉︎」
いや、しかしそんなことは実際にあった。登記簿ではたしかに家の前はA家の土地になっており、我が家の敷地の前面は1ミリたりとも公道に接していなかったのである。
「いや、そんなことある???」
さすがにこれはひどい。公を名乗る団体が善良な一市民に対する仕打ちではないと思う。だって、そんなことをすればうちが、のちのちどんな目にあうか、考えなくてもわかるだろう。公道に接していない家は再建築不可物件になるのだから。