アベノミクスの軌道修正を

 ――経済政策についても伺います。アベノミクスでは企業が儲かれば、国民も利益を享受できるトリクルダウンが起きるとされましたが、幻想だったとお考えですか?

 石破 実際、起きなかったじゃないですか。アベノミクスを否定するわけではありませんが、マネタリーベースを2年間で倍にして、2%の物価上昇を実現するという話だったのに、そうはならなかった。安倍政権で産業競争力会議の民間議員を務めた竹中平蔵氏も、「アベノミクスは2年で終わるべきだった」と語っていました。今後はアベノミクスからの軌道修正を図らなければなりません。重要なのは労働分配率の向上です。まずは生産性を上げて、得られた利益をきちんと労働者に分配していく。円安が続いてきたため、輸出産業では数字上、ものすごく儲かったように見えますから、付加価値や生産性の向上にそれほど重きを置かずにここまで来てしまった。

 ところが今、円安で物価が高騰し、積極財政で借金も増えた。金利を上げたら国債費がかさむので予算も組めない。完全にどうにもならなくなる前に、「ワイズ・スペンディング」に変えていくための議論をするべきです。もはや、軟着陸は相当難しいでしょうが、飛行機が大破したり、乗客が死傷したりしない程度の着陸をどう実現するか、考えなければなりません。

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石破氏 ©文藝春秋

 ――財政再建に関しては、憲法に明記して一定程度の規律を守るべきだというご意見でしたね。

 石破 憲法に書くかはともかく、財政の機動力は常に担保しておかなければ、いざという時、意味のある財政出動ができなくなってしまいます。コロナ給付金の多くは貯蓄に回りましたが、ほかに使い道は無かったか。世界中でワクチンの開発に多額の公的資金が投入された中、日本は国産ワクチンがなかなか作れずに、保健衛生面での安全保障の危うさを露呈しました。限られた財源の使い道は厳しく検証するべきです。

本稿は7月17日に「文藝春秋 電子版」で配信されたオンライン番組をもとに記事化したものです。記事全文は「文藝春秋」2024年9月号と「文藝春秋 電子版」に掲載に掲載されています(石破茂「総裁選は同志とともに」)。