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 帝王切開する場合、産婦は裸で手術台の上に仰向けになり、手足が落下して神経障害を起こさないよう、四肢を柔らかい布で手台や足台に固定される。点滴の管や尿道カテーテルも入っているので動くこともままならないのだが、緊張と不安の中、否応なしにメスを入れられたのだった。

 通常の予定帝王切開では、ビキニラインに沿って横に切開することもあるが、グレードA超緊急帝王切開の場合、一刻を争っているため縦に切開することが多い。ヘソの下から恥骨に向かって10〜12cmほど、皮膚表面から真皮まで一気に加刀、切開する。

 過去にX医師に切腹カイザーをされた別の女性は、「地獄の痛みと恐怖だった」と語っている。

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パワハラと医療安全を無視した手術室

 切腹カイザーの現場には、後期研修医のほか、産婦人科医や手術室看護師、助産師もいたはずだが、なぜ誰もX医師を止められなかったのか。主な原因のひとつに、X医師のパワハラによる恐怖支配がある。

仲田医師が全国の医学部麻酔科宛にFAXした告発文

 仲田医師の告発文によると、X医師によるパワハラは、

〈手術室内に響き渡るような超大声で後期研修医を怒鳴りつけ、泣かせる〉

〈根拠に乏しい、30年前に日本で行われていたようなX医師の麻酔管理を後期研修医に半強要する〉

〈専門医の資格取得に必要な症例経験を後期研修医にさせない〉

 など、職務上の地位を利用して行われた。

 いずれも適切な指導と呼べる範囲を超えており、人前で怒鳴りつけるといった行為が常態化していたため、部下の医師たちは精神的、肉体的に傷つき、職場を失うのではないかという恐怖や自己研鑽の機会を奪われる絶望に囚われていった。

 また、X医師は、関東の国立大学医学部を卒業後、M元教授に追従してA大学に来たのだが、両医師の市中病院麻酔科との折り合いは非常に悪かったという。

「両医師がいるのなら大学へ人を派遣したくないという市中病院麻酔科部長の意見もあり、X医師の存在ゆえに、A大学臨床麻酔部での勤務を避けている初期研修医、後期研修医の話も聞こえてきます」(仲田医師)