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今なおA大学に在籍するX医師

 なぜこれほどまでに切腹カイザーの医療事故報告は少ないのか。法律事務所、ALG&Associatesで産婦人科の医療事故を専門に扱う井内健雄弁護士は、こう指摘する。

「帝王切開の場合、娩出して縫合したら身体は元に戻ります。仮に麻酔が効いていたとしても傷跡は残るので、身体的には大きな違いがわかりません。PTSDになったとしても、その人の個性の問題ということになってしまいがちです。損害賠償の評価は交通事故の基準が使われ、後遺症で等級が決まりますが、精神的な評価はほとんどされません。後遺障害等級は認められないのです。切腹カイザーを裁判で争って示談にしても、満足できるような賠償がなされることがないのが実情です」

 X医師は、日本麻酔科学会指導医、日本小児麻酔学会認定医であり、現在もA大麻酔科の講師としてスタッフ一覧に掲載されている(2024年8月31日現在)。

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 A大学麻酔科は、医師の一斉退職などにより医師が18名から4名にまで減少していたが、2022年4月に新しい教授を迎え、体制を一新。「患者さんの安全と安心を何よりも優先する」としている。しかし、複数回あった切腹カイザーについては、いまだ事故調査委員会は設置されておらず、公式な発表もなく闇に葬られたままである。

 A大学医学部附属病院は、県内唯一の特定機能病院であり、県民はここに来れば高度な医療を受けられると信じて疑わない。さらに、集約化が進められる中、地域周産期母子医療センターとしてリスクの高い妊産婦や新生児の命を繋ぎ止める責務を負い、地域全体の周産期の医療体制の整備、拡充においてリーダーシップを発揮しなければならない立場でもある。しかし、手術室という密室で切腹カイザーが行われた事実を隠蔽して、真の高度周産期医療を実現できるのだろうか。

 A大学に、切腹カイザーについて把握しているのか、なぜ事故調査委員会を設置して原因究明しないのか、X医師を雇用し続けるのかと質問したが、期限までに回答はなかった。その後、電話で重ねて尋ねたところ、「コメントは控えたい」という回答に終始した。