今年3月、大谷翔平選手の口座から26億円以上もの資金を奪って不正送金し、違法賭博につぎ込んでしまったことが露呈した、元通訳の水原一平氏。そんな彼を見て、経済アナリストの森永卓郎氏は「けっして特殊な人ではない」と喝破する。森永氏が語った、「水原一平」と「今、投資にのめり込む人」の共通点とは――。新刊『投資依存症』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

経済アナリストの森永卓郎氏 ©getty

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水原通訳はなぜ“転落”したのか

 大谷翔平選手の通訳を7年にわたって務め、大谷選手と親友のような人間関係を築いた水原一平氏による違法賭博事件は、世界中に大きな衝撃を与えた。

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 それまでの水原容疑者の人生はまさに順風満帆だった。大谷選手の移籍にともなってドジャース入りしたあとの年俸は6000万円とも7000万円とも言われた。通訳として初めてアメリカのベースボールカードにも登場し、エンゼルス時代に発行された大谷選手とトラウト選手の直接対決のベースボールカードは、大谷選手、トラウト選手、水原通訳の3人だけにプレゼントされた希少カードで、売りに出せば3億円以上の値段がつくとも言われた。

 金銭面だけではない。水原通訳は、時には大谷選手より多くの声援を集めることさえあった。そうした何不自由のない人生のなかで、水原氏はなぜ、大谷翔平選手の口座から26億円以上もの資金を奪って不正送金し、違法賭博につぎ込んでしまったのか。

 米スポーツ専門チャンネルのESPNによると、水原氏は自身がギャンブル依存症であり、「泥沼にハマってしまい、抜け出すためにもっと大きな金額を賭け、雪だるま式に負け続けた」と話したという。

大谷翔平選手と水原一平氏 ©getty

 ギャンブルで負けると、その分を取り戻せるだけの金額をまたギャンブルにつぎ込む。そこで負けるとさらに大きな金額をつぎ込む。やがて手持ちの資金が底をついてパンクする。これがギャンブル依存症のお決まりのパターンだ。

 十分な収入があるのだから、そこまでしてカネを稼ぐ必要はないのではと思われるかもしれないが、依存症の人は、必ずしもカネが欲しくてやっているのではない。スリルが忘れられなくなるのだ。

 人間が感じる快感には「安楽」と「快楽」という2つがある。

「安楽」というのは、何もかも満たされた快適な状態だ。

 ところが、「安楽」よりもはるかに強い快感をもたらすのが「快楽」なのだ。

 心理学に「ソルテッドナッツ・シンドローム」という言葉がある。塩をまぶしたナッツを食べていると、ほどよいところではやめられず、最後の一粒まで食べてしまう。それが「快楽」だからだ。